デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~


 結構力を入れて背中に爪を立てているからか、痛いのか身を捩るが、それすらも抑え込むようにきつく抱くと、肩を揺らして彼が笑った。
「うふふっ、漸くここまで来て本音らしきものが聞けたか。でも、未だだ。足りないぞ月島。全然、足りない。いつ私を満たしてくれるんだ? 満たして、くれるんだろう?」
「……ベッド、行きますか。あなたも随分、ソノ気のようだし……焦らしては、いけないんでしょう?」
「焦らし、か。そうだな、散々煽ってくれたおかげでお前の言う通り、もう限界だ。早く欲しい。いろいろ欲しい。何もかもが欲しくてたまらない。さて、どうしてくれる? 責任、取ってくれるんだろうな」
 少し身体を離し、片手で彼の頬を包み、ずいっと顔を寄せて耳元で囁く。
「あなたの身体も心も、隅々まで……貪りたい。貪って、食べてしまいたいと思う俺を、あなたはどう思うでしょうね。丸かじりして……しゃぶり尽くして俺しか考えられなくなるように、躾けたい……」
 すると、彼の耳が真っ赤に染まり、顔の位置をずらして今度は彼が耳元に顔を寄せてくる。
「……お前のことしか、考えてない。躾けられる前に、もう躾けられている。私はお前の……奴隷だ月島」
「先に歯磨き、済ませてください。俺はテーブルの上の片づけを済ませてベッドの準備してます。そしたら、その後は……分かってますよね」
 彼からの返事はなく、その代わりに缶に残っていたビールを煽って空になった缶を置き、するっとソファから立ってその足は洗面台へと向かっている。
 それを見届けて、手早く空になった缶を纏め、残ったチーズを冷蔵庫へと仕舞う。後はまあ、明日でいいだろう。後は、ベッドの準備をしないと。
 寝室へと入り、キングサイズのベッドのシーツや掛け布団をきれいに敷き直し、枕の下には使いかけのローションのボトルを忍ばせ、じっとそのままベッドを見つめる。
 ここで彼を、今から抱く。
 このベッドの上で、今日の彼は一体どんな顔を見せてくれるのだろう。
 期待で胸がドキドキと騒がしい。抱いたことなんていくらでもあるのに、何故だろうか。今日はやけに興奮すると思う。
 この激情を彼にぶつけたら、壊れてしまわないだろうか。一旦、風呂にでも入って気持ちを落ち着けた方がいいんじゃ……。
 そう考えながらベッドの傍に立っていると、相変わらずパジャマの上しか着ていない素足を晒した彼が寝室へと入ってくる。
「……歯磨き、済ませた。早く来い。すぐに来ないと……独りでしてしまうぞ。お前の許可なく、イってもいいならゆっくり来い、そうじゃなく、いやだったら超特急で支度を済ませてここへ来い。分かったな」
 そう言って、彼はベッドの上に乗り、掛け布団を剥いで中へと潜っていった。
 枕の上に散っている髪をさらりと撫でた後、何かを考える間もなく洗面台所へと向かっていた。
 早く、早く早く早く。とにかく早く彼の元へ行きたい。抱き潰して、潰し殺してやりたい。
 手早く歯ブラシに歯磨き粉をつけ、歯磨きを始める。
 その間にもチンポはどんどんと興奮を交えてデカくなっていっていて、自分でも正直、驚くくらいに興奮しているのが分かる。
 股間を気にしながらしっかりと歯を磨き、口を漱ぐとすぐにその足は勝手に寝室へと向かっていた。
 この手にしたい。一刻でも早く、彼を自分のモノにして何も考えられなくしてやりたい。そういった獰猛な考えが頭を擡げ、さらにチンポが硬くなる。
 そっと寝室の扉を開け、なるべく足音を立てずにベッドの傍へと行くと彼は俺に背中を向けていて、ぴくりとも動かない。
 まさか、寝てしまったのではないだろうか。
 取りあえず、自分も掛け布団を捲ってベッドに潜り込み、やはり彼に背を向けて横向きに倒れて様子を窺う。
 なんだかな、あれだけヤる気だったのにいざこうして一緒のベッドにいると、何故か緊張してくる。
 一緒に暮らし始めてから、いつでもヤろうと思えばできる環境にあるからか、こうして無防備に横たわっている姿を見るとどうしても、二の足を踏んでしまう。
「あの、音之進さん……眠ってしまった?」
「起きてる」
 静まり返る部屋。これって、どうしたらいいんだろうか。何か、きっかけみたいなものがあればいいんだが、チンポが勃起しすぎてキツイ。早く何とか治めたい。
 挿れたい、彼のナカに。挿れて奥まで貫いて、乱してやりたい。
 そういった欲だけが先に立ち、どうしても行動に移すことができない。興奮だけはマックスだというのに。
 暫くそのままの姿勢で固まっていると、ごそっと後ろで音がして彼が動いたのが分かった。
「つきしま……何をしている。……月島、つきしま」
 呼び声がしたと思ったら、彼の腕が伸びてきて強引に引き寄せられてしまう。そしてそのまま後ろを振り向くと、彼の欲情に溢れた眼がまず見えて、思わず手を伸ばして彼の頬へと触れてしまう。
 彼の頬は熱いくらいに火照っていて、触ると火傷しそうなほどだ。
 じっと見つめ合うことどれくらいが経ったのだろう。
 まるで引き寄せられるように勝手に顔が彼に近づき、彼も目を細めてこちらに寄ってくる。
「音之進……」
「……つきしま……」
 見つめ合いながらだんだんと距離が詰まり、ゼロの位置に彼の顔があると思ったら唇にふわっとした真綿の感触が拡がり、次いで甘い味が唇を通して伝わってくる。
「ん、んン……ん、は、つ、き、しまっ……」
 彼の甘く蕩けた声が聞こえてきて、それを合図のようにして唇を軽く吸うと、かなり甘いヨダレが口のナカへと流れ込んできて、その味に夢中になり、つい加減なく何度も唇を啄むように吸うと、彼も応戦してきて唇の吸い合いになり、ちゅっちゅと湿った音が立つ中、まるでそれしかしらない生き物のようにしてひたすらに唇を吸い、甘い味と柔らかな感触を心行くまで愉しむ。
 今は、それが赦される時間だ。
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