デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~


 やはり、彼と飲むビールは美味い。何故かというと、彼の両足は俺の太ももに乗っかっている。パジャマの下を穿いていない所為で、生足が丸見えなのだ。
 その足を眺めながらのビールが美味いという意味だが、彼は分かっているのだろうか。自分がそういった性的な眼で見られているということに、気づいては……いないだろうな。鈍感だからな、そういうとこは特に。
 さらに目線を奥へやると、股間が見えるか見えないかの位置で絶妙に見えないのもいい。非常にいい。
 こういうのを絶対領域と呼ぶのだろうか。この絶対領域はたまらない。煽ってきてるのかと勘違いされても仕方がないと思う。
「月島ぁ。いいものだな、やはり金曜の夜というのは。お前に思い切り甘えられる。だから好きだ、金曜の夜は。つきしま……」
 まるで誘うような声を出して俺の名を呼ぶと、手の甲ですりすりとほっぺたを撫でられた。
 なんだ、本気で誘っているのかこれは。
 ちらりと彼を見ると、どうやら少し酔ってきたらしい。ほっぺたが少し赤くなって、眼も赤い。この人は酔っ払っていい気分になるとやたらとスキンシップが激しくなる。要は、触られまくるということだ。そして、抱きついてもくるし、肌を合わせたりもしてくる。
 こちらとしては嬉しさ半分、後は我慢が必要になるのでそこら辺は分かって欲しいが、絶対に分かってくれないと思われる。
 彼は抱かれたことはあっても、抱いたことが無い。その違いだと思うが毎回、この我慢が結構大変で、ともすれば襲ってしまいそうになることも多々ある。それをこらえるのが大変なのだ。
 分かっていないからこそできる、スキンシップの数々。悩ましいところだ。この無防備さが、今は少し憎らしい。
「やはりいいな、月島は……頬が温かい。熱いくらいだ。でも、気持ちイイ……」
 うっとりと歌うようにそう言って頬を擦っていた手がだんだんと首に移動し、喉仏が人差し指の腹でなぞられる。
 そしてその指は胸元にまで入って行き、パジャマのボタンが邪魔するまで指を入れてそこでもすりすりと指の腹で肌を擦ってくる。
「熱い……」
 そのまま徐に指を胸元から抜き出したと思ったら、なんとその指を口に入れしゃぶり始めた。これにはさすがの俺も驚いた。
 ちゅぷちゅぷと音を立て、指の腹を舌でなぞりながら舐めている様はなんとも妖艶でいて、そして幼げだった。
 そのまま口から指を抜き取り、名残り惜し気にもう一度だけしゃぶり、こんなことを言い出した。
「ん、甘い……月島は肌も甘いな。もっと……欲しい。足りない、欲しい」
 そう言っていきなり首に腕がかかったと思ったら思い切り引き寄せられ、首元やうなじにちゅっちゅとキスを落としながら肌を舐めてきて、その吐息の熱さに思わず身体を震わせてしまう。
「ちょ、待っ……! 音之進さんっ!! 待って、待ってください!! あっちょ、っと」
「んー……いいにおい月島。未だ味わい足りない。未だだ、未だ……もっと」
 するっとパジャマの裾から手が入り、腹を大きく撫でられてしまい、その手の熱さにも驚くが、さらに驚いたのは、俺の肌を撫でた手をパジャマから抜き出し、撫でた手のひらをぺちゃぺちゃと舐め始めたのだ。
「甘い味がする……月島の肌の味、すごく好きだ……どうしようもなく、欲情する……」
 慌ててその手を取り、口から離すとそのままついてきて、彼との距離がますます近くなる。
「音之進さん……!」
 思ったよりも、上ずった声が出たと思った。自分で思っているよりも、ずっと彼に煽られているということか。
「つきしま……」
 目の前には彼のヨダレ塗れの手があり、思わず惹きつけられるようにして彼の濡れた手を舐めると、彼の味がして目線は合わせたまま、味わうようにしてゆっくりと舌を這わすと、彼ののどがごぐっと鳴った。
「はあっ……ん、つきしま、手が気持ちイイ……。どうだ、私の味は。好きか?」
「すごく、甘ったるくて美味い……好きです、あなたの味。俺も……欲情、します。あなたを早く、抱き潰してしまいたい……めちゃめちゃにして、何も分からなくしてやりたい。そう思って、手を舐めてます。きらいですか、こんな俺は」
「好きだ! 好きに……決まっている。私をこんな風に乱すのはお前だけだ。私にはいつだって、お前だけだ月島っ……!」
 衝動で彼の身体を掻き抱くと、腕の中で熱い吐息を彼はつき、俺の背中にも腕が回り体勢的に若干の無理があるものの、彼を抱いている気分にはなれる。
「はあっ……月島、つきしま、つきしまっ……!! はっはああっ……ああ、早く、早くお前を私のモノにしたい。私しか見えなくなるように、お前の時間が欲しい。そしてお前も、私と同じく私のことばかりを考えているようにしてやりたい。月島……愛してる」
 ガリガリと背中を引っ掻かれ、さらに抱きついてくる彼を激しく抱き返し、ぎゅうぎゅうと自分の身体に押し付けて首元に顔を埋める。
「俺のすべてはいつだって、あなたのモノです。もう、手にしているでしょう……? 強欲ですね、随分と」
「未だだ、足りない。いつだって、足りてない。お前は未だ、私を想うには足りない。私がお前を想うように、お前も私を想ってくれ……それで漸く私たちは、対等になれる。最高の関係になることができる。そう思うだろう……?」
 首元に埋めた顔をぐりぐりと擦り付けて肌のかおりを嗅ぎながら、俺も彼の背を引っ掻いてみせる。
「俺がどれだけあなたを好いているか、知らないくせによく言えますね。俺だって……あなただけだ。あなただけ、想っているのに……愛してますよ、音之進さん」
「んっ……! 呼び捨てで呼んでみろ。つまらない奴め」
「音之進……愛してる。俺はあなたを、愛しているよ音之進……大好きだ」
 さらに背中を引っ掻くと、ビクビクと彼の身体が引っ掻くごとに跳ねる。
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