デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~
その手は俺の頬をすりすりと擦り、きゅっと親指と人差し指で抓まれてしまう。そして、僅かに揺らされ、その所為で少し、視界が揺らぐ。
「後から……だぞ。ちゃんと、私が満足するまで抱いてくれるんだろうな。欲しいものをちゃんとくれると約束するまで、ここを退かんぞ。風呂場では比べ物にならないものを、ちゃんと寄越してくれるんだろうな。身体ごと、心も含めお前が欲しい。すべてを手にするまで、私は今夜は寝ない」
思わず、のどがこくりと鳴ってしまう。
そんな彼の眼には明らかな欲情が浮かんでいて、真剣なその様に見入ってしまっていると、ふっとその表情が緩み、顔が近づいてきて唇を奪われてしまった。
しかしすぐにキスは解け、至近距離に彼の顔がある。
「柔らかな唇……欲情する味がする。早く、早く月島が欲しい。私のモノにしたい。ベッドの中に入っている時だけは、お前のすべては私のモノになる。その瞬間が、とてつもなく好きだ。私しか見ていないお前を見るのがたまらなく愛おしい。……分かっているか、月島」
彼の表情は真剣そのもので、どうやっても言葉が出ない。
じわじわと包み込んでいた燃えるほどの感情が彼の瞳に滲み出てくるのが分かる。痛いほどの愛情とはきっと、こういうことを言うのだろう。
彼の迫力に押されながらも、肌が痛いくらいの視線が愛おしいと感じる。心底に愛おしい。
ぐいと彼の腰を引き寄せ、顔を近づける。
するとさらに彼の膝が俺の股へと入ったところだった。
「ん? なんか、膝が……」
突然彼が身体の動きを止めたため、俺も同じように止まると彼は首を下に落として何かを見ている。
「どうかしましたか? イイトコロが台無しです。何かありましたか」
「いや、膝がなんかぬるぬるする」
そう言って彼が俺の太ももに座って足を延ばすと、なんと膝にはぺちゃんこに潰れたキューブ型のチーズの姿があり、見事に体重で押されたそれは形を成しておらず、彼が悲しそうな顔で俺の顔を見てくる。
「……仕方ありませんね。どうしてチーズなんてばら撒くんです。だからこういうことになるんですよ。はい、足寄越してください」
チーズを包んでいたアルミを膝から剥がし、皿の上に置き、足を持ち上げてそのまま膝ごとチーズを舐めると、ピクンッと足が跳ねたが気にせず、きれいになるまで舌を使って舐め取っていく。
ちらりと目線を彼に移すと、彼は顔を真っ赤にして口は半開き、なんとも色っぽい様を見せつけながら俺がすることをじっと見ている。
チーズを舐め取ると、足とはおさらばしてもいいがそのまま調子に乗って膝から太ももにかけて大きくべろりと舐めると、今度こそ「んっ……!!」と声を出して啼き、手を口元へと持っていって、大きく甘い吐息をついた、
さらに内ももにも舌を這わせ、ちゅっちゅと音を立てさせながら所々にキスを落とし、股間へと迫る。
「ま、待っ……! つ、つきしまっ! そんなっ……」
「もっと欲しいと言ったのはあなたでしょう? 欲しいものが手に入って嬉しいですか? 肌が、甘い……あなたはどこもかしこも、甘いですね……クセになる味がする」
敢えて股間を避け、無理な体勢ながらもせっせと足を舐めると、ぷるぷると彼の身体が震え出す。どうやら、感じてくれているらしい。
そのことに悦びを見出しながら、さらに足を舐める。
彼の足はアルコールの所為かいつもよりも熱く、そして少ししっとりしていて舐め心地がすごく良い。舌が悦んでしまう。時折、ぢゅっと吸いつくとピクッと足が跳ねるところもかわいらしい。
若い所為か、肌のハリがまったく違う。それに先ほど彼にも言ったが、なにより甘い。この甘さは何処から来るんだろうな。不思議だが、興奮する。それはもう、ガッツリとチンポが勃つくらいには。
そのままの勢いで下着の上から彼の股間をぱくっと食むと、顔を思い切り横へと向けられてしまい、ぐきっと妙な音がしたと同時に首に痛みが走る。
「ま、待てっ!! び、ビール、ビールもう少し飲みたい。い、いきなりっ……そんな、こんなとこ、は、はあっ……つきしまは、やっぱりやらしい。すごくやらしい!」
大きく溜息を吐く俺だ。さっきと言っていることがまるで違う。俺としてはこの場でコトに及んでもいいくらいの覚悟だったのに。
またもう一つ、溜息を吐いてから彼の足を退かして立ち上がる。
「分かりました、ビールですね? どうしますか、二本くらい飲みたいですか?」
「あ、ああ。そうだな。それくらいは飲みたい。あ、のっ、月島っ! 今のは……拒絶したわけじゃないぞ。ただ、驚いて……」
ああ、あれか。初速が遅いパターンか。それはもう、仕方がない。この人の持ち物だからな。責めたって、責められるもんじゃない。
すいっと屈み、彼のあごを持ち上げて額と唇にキスを落とし、本格的にソファから離れ冷蔵庫へと向かう。
そして四本のビールを手に戻ると、彼は両足を合わせて体育座りになっていて、俺が戻ってくると、まるで迷子の子どものような顔で見上げてきた。
「言っておくが月島……お前のことがきらいになったんじゃないぞ。それだけ……言っておく」
「だったらその拗ねたような態度は止めてください。俺はなにも思っていませんよ。はい、ビールのおかわり。一緒に飲みましょう。あと、チーズを拾うの、手伝ってくださいね」
そうして仕切り直しのつもりで床やソファに散ったチーズも拾い上げて、もう一度乾杯をして冷たいビールをのどに思い切り流し込む。