デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~
何とか口づけを解こうとするが、彼はしつこく唇を吸ってきて離れる気配が一向に見えない。
困った。
どころかさらに身体をくっ付けてきて、とうとう俺の上に乗り上がってきて首に腕を巻きつけてくる。
この人、暑くないのか? もう暑さってものが麻痺して頭が若干、おかしくなってきてるとか、そういうことだろうか。
そんなことを考えながら唇を吸われていると、気が無いと思ったのか下唇をきつく噛まれた。そして、丁寧に噛んだところを舐めてその舌は唇を離れ、俺の耳たぶをしゃぶり始めた。
こ、これはキくっ……!! だめだ、気持ちイイ。
「ちょ、音之進さん離してくださいっ! もうだめです、あなたは限界だ! 早く、風呂から出てっ……ん、んうっ!!」
折角忠告してあげた俺の口は、また彼の唇によって塞がれてしまい、情熱的にまたしても唇を何度も吸ってくる。
「んっちょっ……ま、待っ、待って……おとの、し、ん、さっ……! 俺から、離れ、てっ……!」
「つきしまぁ、自分が感じているのがバレるのがそんなにいやか。助平だもんな、月島は」
「えっ……」
至近距離で彼が妖艶に笑って、挑戦的な眼つきでこちらを見ている。
「私は好きだぞ、助平な月島が。大好きだ。……でも、ちょっと暑い……暑くて、なんだか……」
「お、音之進さん!?」
腕の中で彼の身体が大きく傾ぎ、慌てて支えるとそのままぐったりとしな垂れかかってくる。その身体はかなり熱くなっていて、とうとう本格的にのぼせたのだと知る。
仕方ない。未だ湯船に浸かっていたい気持ちはあれど、こんな彼を放っておくわけにもいかないので仕方なく、風呂は後から洗うことにして彼と一緒に上がることにした。
だから言ったのに……のぼせるって。言わんこっちゃない。
「はい、俺に体重預けてください。上がりますよ」
「んー……つきしまぁ。……大好き……好き……好き、だぞ……ホント、に」
この言葉を最後に、彼は意識を飛ばしてしまったのだった。
それからが大変だった。
気を失った音之進さんは重く、何とか浴室から引き摺り出して身体を拭き、髪もざっとタオルを使い水気を切って、パジャマに至っては下は無理だったのでパンツだけ穿かせ、抱き上げてソファの上へと降ろしてやる。
自分も大雑把にタオルで身体や頭を拭き、下着とパジャマを身に着けて彼の元へと駆け付け、うちわで顔の辺りを扇いでいると、ピクピクと彼の瞼が動き、薄っすらと黒目が見えた。
「……眼が覚めました? だから言ったでしょう、のぼせるって。風呂場で倒れたの、覚えてません?」
「あ、ああ……そうか……やってしまったか。……月島ぁ、意識を失っている私に、変なことはしていないだろうな」
「しませんっ!! そんなに飢えてませんから。それより、水かなにか飲まないと……ポカリがいいですか?」
頬に手を当てて身体の温度を感じながらそう問うと「ポカリ」と返事が来た。
「はいはい、ちょっと待っててくださいね。いま取って来ますから」
うちわで扇ぐのを止め、ソファから立ち上がろうとしたところでくいっと腕を引かれてしまい、思わずまた座り直してしまうと、薄っすらと彼が笑いながら自分の唇をちょんちょんと突いてきた。
「いたずら、してもいいんだぞ。私は今、動けないからな」
呆れる。風呂場であんなことして倒れておいて、未だ言うか。
「しません。それより、早く元気にならないとビールが飲めませんよ。飲むんでしょう? 金曜の夜はビール解禁日ですからね。取り上げますよ、ビール。あなたの好きな、プレミアムビール」
「あぁっ……!? そ、それを言うか月島!! な、なにをっ! 私からプレミアムビールを取り上げようなどとのたまうか!! それは許さん、許さんぞ!! 私は絶対に飲む!!」
「だったら、早く元気になってください。でないと、こういうことも……できないですし」
「こういう……?」
未だ横たわっている音之進さんの顔を両手で跨ぎ、ちゅっと軽くキスしてやるとぼっと顔が赤くなった。未だのぼせてるな、これは。
「なっ、なっ……つきしま!!」
「あなたがいたずらしてもいいって言ったんでしょう? キス、いただきました。それより、未だ唇が熱い。ビールはちょっとお預けですね。早く体温を戻してもらわないと」
するとぷくっと彼の頬が膨らんだ。分かりやすく、拗ねている。大方の想像はつく。風呂上りはビールと決まっているから、それが取り上げられて不服なんだろう。
知らん顔をして冷蔵庫で冷えているポカリを取りに行って戻ってくると、いきなり腰に抱きつかれあまりに力強く抱きつかれたものだから、バランスを崩してしまい危うく彼を潰すところで何とか堪え、ポカリを持ったまま前傾姿勢で耐えていると、ぽつんとこんなかわいいことを言った。
「ビール飲みたい……月島と、飲むのだ!! 私は飲む、飲みたい……つきしまぁ……取り上げるな」
この蕩けるような声色で「つきしまぁ」と呼ぶのは毎回思うが、反則だと思う。甘い声出して……タダで済むと思ってんのかこの人は。後から覚えてろ、その声ごとめちゃくちゃにしてやる。
襲いそうになる自分の理性と戦いながら、彼の頬に冷たいボトルを押し付ける。
「はい、ポカリです。これ飲んで体温下げたら、一緒に飲みましょう。金曜の夜限定、プレミアムビール」
「月島、膝を貸せ。太ももが欲しい」
ああ……乗っかりたいのか。まったく、甘えただ。でも、これも悪くないと思えてしまうから俺も相当、彼にずぶずぶなんだと思う。