デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~

 そしてこれもまた因みにだが、金曜の夜は音之進さんの頭だけじゃなく、身体も洗うことにいつの間にか決まってしまった。ついでに言うと、顔もだ。
 いつからそうなったのか記憶にないが、一緒に風呂に入るようになってから、彼は本当に何もしない。ただ、タイルに座って俺がすることを受け止めているだけだ。
 まあ……あれだな、これはやはり夜の問題か。抱かせてやってるんだから、これくらいしろとでも言いたいんだろう。その通りなので、文句も無くせっせと風呂場で身体を動かしているが、これも惚れた弱みというヤツなんだろう。
 これだけ尊大な態度を取られても、俺が彼を好きなので仕方がない。そしてきっと、こういうことを許している辺り、彼もきっと俺のことが大好きなはず。いや、好きなのはビンビン伝わってくるから……いいか。諦めよう。
 そしてきれいに丸洗いした彼を湯船へと浸し、俺は俺で自分の身体を洗いにかかる。
 するとすかさず、石鹸のことを指摘してきた。またか……もう毎回過ぎてうんざりする。いいからもう放っておいてくれ。
「月島ぁ! その石鹸を止めろと何度言ったら分かるんだ! 髪はシャンプーで洗え! 顔は洗顔料、そして身体はボディーソープがあるだろうが!」
 すかさず言い返してやる。俺はこの石鹸が好きなんだ!
「いいんです、俺はこれで満足してるんですから。大きなお世話です」
 そう言って泡立て始めると、とうとうなにも言わなくなり風呂場は俺がシャワーを使う音だけになり、ふっと後ろを見てみると不機嫌そうにこちらを見ている彼がいた。
「熱いぞ、月島。もう私は浴室から出たい」
「どうぞ、出てもらって結構です。俺は未だ身体も洗っていないんで、それからゆっくりと湯船に浸からせていただきます。先に出てていいですよ」
 すると、ほっぺたを膨らませて抗議してきた。そんなに怒るほどのことか、これが。
「そうすると一緒風呂の意味が無くなってしまうだろう! 私はお前と湯船に浸かりたい! 楽しみを取るな! 私から!!」
「はいはい、今すぐにそちらへ行きますから。待っててください」
 まったく、なんて世話のかかる……! わがままな人だ。そこもまあ、好きなんだから厄介だ。
 身体から泡を洗い流し、足先からゆっくりと湯船に浸かるとやって来るのは極楽だ。
「ふうー……気持ちイイ。はあっ……やっぱり、風呂はいい……」
「月島ぁ! 私は熱い!!」
「だから出ていてくださいって何度も言っていますよね? 毎回この会話……!」
「私は一緒風呂を楽しみたい! もっと楽しそうな顔をしろ月島! だめなやつだ」
 小言を聞きながら湯を掬って顔にかける。極楽過ぎる……。この熱い湯がたまらない。湯は、熱ければ熱いほどいいってもんでもないが、基本熱い湯が好きだ。これは好みにもよるんだろうが、やはり、湯船の湯は熱いに限る!
 上機嫌で湯に浸っていると、目の前の音之進さんの顔が真っ赤になってきているのが分かった。これは、限界だな。外へ出さないと。
「音之進さん? いい加減外へ……音之進さん」
 俺たちは向き合って風呂に浸かっていたが、何故だか彼が顔を真っ赤にしながら近づいてくる。なんだ、なんなんだ。
 戸惑っていると、そのまま俺の身体にしな垂れかかってきて、肩に頭が置かれる。すると、ふわんっといい香りが鼻に掠り思わず心臓がドキッと妙な感じで鳴った。
「お、音之進さん? ちょ……あの」
「熱いから、違うことで気を紛らわそうと思う。月島ぁ……」
 甘えた声で擦り寄られ、こちらは心臓がバクバクしてさらに身体が熱くなってくる。うわ、なんか……すごくドキドキするな。こんな触れ合いなんてしょっちゅうしてるのに、なんかたまにこの人、こういう初心なことをしてくる。
 こんな風な触れ合いなんて高校生だってやってる。いや、中学生でもしてるかも。なのに何故に俺はこんなに動揺しているんだ。
 彼の顔が動き、耳の後ろに鼻を突っ込んでくる。
「モーモー石鹸のにおいがする……後は、少し月島のにおい……いいにおいだ」
 さらにすんすんとにおいを嗅がれ、ちゅっちゅと音を立てて吸いつかれた。うわ、き、気持ちイイっ……! ココ、性感帯だったのか、知らなかった。
 首を横に傾けると彼の肩口が見えたため、顔を動かしてちゅっと吸いつくと、ピクッと彼の身体が動いた。
「んっ……! 月島っ、今は私のターンだぞ。お前は何もしなくていい。好きなようにさせろ。たまにはいいだろう」
 いや、たまにじゃないですけどね。隙あらばこうやっていろいろしてくるくせに、今日だけみたいな言い方して。困った人だ。でも、悪くない。全然悪くない。寧ろ燃える。
 湯船の中で腰に手を回し、抱き寄せてみると俺の身体を跨ぎ、さらにくっ付いてくる。今日はやけに甘えただな。いつも甘えてはくるけど、今日みたいな日も珍しい。
 甘えられて悪い気分はしないし、寧ろ甘えられると嬉しいからいいけど、時折あるこの妙に甘えたな日は一体なんだろう。
 不思議に思いながら浅黒い身体を手で擦ると「うんっ……!」そう言って啼いて身を捩った。
「こら月島っ。何もしなくていいと言っただろう。集中できなくなってしまう」
 そう言って今度は首元に吸いついてきて、小さくぺろりと舐められた。んっ、いいなこれ。気持ちイイ。こうやってサービスのいい日は好きにやらせている。抵抗してへそを曲げられても厄介だし、彼だって男だ。こうして想い人を責めたくなる日もあるんだろう。
 そう思ったが、ついいたずら心が湧いてしまい手を下に持っていって彼の尻をガッツリ掴んで揉みしだくと、ぶるっと彼の身体が震えたのが分かった。
「んっああっ!! やっ、い、いきなり尻を揉むなっ!! なにをする!! 今は私の番だと言っているだろうが!!」
「でも、気持ちよかったんでしょう? 尻くらい揉ませてくださいよ」
「……助平。月島の、ドスケベ」
 でもあんまりいやがってる様子でもない。ということは、揉んでもいいということだ。
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