デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~

 これは……悪いことをしてしまった。一週間のたまり溜まったザーメンがこんな形で彼を汚すことになろうとは、これ如何に。
 反省しながらとことんシャワーを使っていると、彼から文句が飛び出した。
「月島ぁ!! 息ができん!! 早くシャワーを止めろっ!! 私を殺す気か貴様っ!!」
「えっ? あ、あああっ!! す、すみません、今すぐ止めますから息してください。死にます!」
 慌ててシャワーヘッドを別方向に移動させると、肩で息をした彼がぎっとこちらを睨みつけてきた。
「貴様月島っ!! なにをするっ!!」
 怒るのもこれは無理はない。俺が全面的に悪い。しょんぼりして肩を落とし、雫を垂らす髪を両手で掻き上げると、少し彼の怒りの表情が和らぐ。
 キス、したい。
 むくっとそんな欲が頭を擡げてしまい、そのまま濡れ髪を何度も掻き上げるとどうやら分かってくれたらしい。
 だんだんと色気のある表情に変わっていって、小さく名前を呼ばれた。
「つきしま……」
 音之進さんの腕が背中へと回り、顔が近づいてくる。その眼はとろんとしていてなんともかわいく、そしてとてもきれいなものだった。
 つい欲情してしまい、頭を撫でていた手をほっぺたに移動させ両手で包み込み、じっと見つめる。
 すると見つめ合いになり、徐々に顔を近づけて行くと音之進さんも顔を近づけてきて、ゼロの距離に顔が来ると、まるで合図のようにして目を閉じる。すると唇にふわっとした真綿の感触が拡がる。
 いつも思うことだが、なんて柔らかな唇なんだろうか。
 こんな唇、知らなかった。柔らかすぎて、唇じゃないみたいな感覚までする。甘い味もするし、ヨダレももちろん甘い。
 菓子かなにかかと思ってしまうほどに、彼と交わす甘いキスは魅力的だ。
 そのまま唇を啄むように何度も吸うと、甘い味が口のナカに流れ込んできて頭がボーッとしてくる。そして、彼のことしか考えられなくなってしまう。
 つい夢中になって唇ばかり吸っていると、それはいけなかったらしい、彼が下唇を柔く噛んできて、それでやっと我に返ることができ、ちろっと舌を出して彼の唇を舐めると彼も舐めてきて応戦になり、ひたすら舌を出して彼の舌を舐める。
 やはり、甘い。なんと言っても、甘い。甘すぎるくらいに、甘い。
 でもやっぱりクセになる味とでもいうのか、どうしても欲しくなってしまう。もっと彼を感じたくてたまらなくなる。
 今度こそ舌を伸ばして開いていた彼の口のナカに舌を入れ込み、ナカを大きくべろっと舐めると、今度は彼の舌が口のナカに入ってきて舐められてしまい、今度もまた舐め合いに発展して、ぐうの音も出ないくらいにベロベロに舐めてやると彼の息が上がったのが分かった。
 口に甘い吐息が入る。これは、相当感じているとみた。
 薄っすらと眼を開いてみると、音之進さんの長い睫毛が細かく震えていて、何となくのどが鳴ってしまう。
 すごく、煽情的な表情だ。色気もあるし、切なげでもあり、それでいてひどく感じているような顔。
 その顔に欲情してしまい、さらに舌を彼の口のナカへと押し込んでナカを舐めたくる。上顎も舐めれば頬の内側や舌の下も舐めたし、舌はもう俺の味しかしないんじゃないかってくらいに舐めた。
 そこで漸く満足がいったのでそっと唇を離すと、彼の眼が徐々に開き黒目が見えてくる。
「貴様月島ぁっ……はあ、はっ……キスが、激し過ぎる!! なんだ今のは、呼吸が、上手くできんっ……はあっはっはあっ、ん、苦しいっ……」
 とは言いつつも、眼つきはとろんとしてますよ。
 宥めるつもりで濡れた髪を手で梳くと、ぽたぽたと水滴が落ちてくる。これは……汗もかいてるな。
「音之進さん、頭洗い直します。きれいになって風呂から出ましょう」
 そう言って提案すると、それは嬉しそうに笑って大きく頷いてくる。くっそ、素直でかわいい。こういう時の彼は本当にかわいい。
 自分の顔が赤くなっているのを感じながら、今度は真正面を向いて座る彼の額にキスを一つ落とし、シャンプーを手に取る。
「眼、瞑っていてくださいね。汗たくさんかいたでしょうから、洗い流します」
「ん、頼む。丁寧にな」
 そっと目を瞑った彼を見届けて、早速手の中で泡立てたシャンプーを髪に乗せて指の腹を使って掻き混ぜる。
「んー……気持ちイイ。上手いぞ月島! その調子だ」
 その彼の言葉に乗せられるよう、せっせと頭をかしかし音を立てて洗い、シャワーで泡を流して、今度はリンスだ。これもシャンプーと同じメーカーのもので、このリンスもお値段爆発だ。
 それを髪に滑らせて洗うと最高にいいにおいがする。このにおいは彼に合ってる。音之進さんらしいにおいとでもいうのか、しかもその上、リンスとはまた違ったトリートメントまで使う。
 このトリートメントもお値段爆発だが、これがまたいいにおいなんだ。リンスとはまた違う、とてもフローラルなにおいとでもいえばいいのか、これも因みにすべて同じメーカーで揃えている。
 一緒に暮らした時からそうだったから、何かこだわりでもあるかもしれない。聞いたことは無いが。
 リンスが終わり、シャワーの湯で洗い流すと、次はトリートメントだ。
 これはすぐに洗い流すタイプのトリートメントなので楽だ。髪に滑らせるともうつやっつやになるのが分かる。髪が喜んでるんじゃないかってくらい、つやつやのてかてかだ。
 これはさっと湯で流す程度にしておかないといけない。全部洗い流してしまってはいけないのだそうだ。後から聞いた話だが、そういうものらしい。
 俺なんかは頭から顔、身体まですべて石鹸一つで終わってしまうため、洗顔料まで使う彼の気持ちがこれちっとも分からないのが少し淋しいが、人それぞれだ。
 だが、いつも俺が身体を洗う番になると必ず指摘を受ける。言うところの「モーモー石鹸一つで済ますな!!」だそうだ。
 お気に入りの石鹸を侮辱されたことには腹が立つが、これを変える気は今のところ、一切無い。例え音之進さんであろうが、これに口出しすることは許さない。何より、コスパがいい。もはや最強と言ってもいいんじゃないだろうか。これで頭から足の爪の先まで洗えるんだ。何を言われようと、今まで通りオレは、モーモー石鹸でいく!!
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