novelmber 2024

 ひと目見て、その幼女が能力を持つ家系の人間であることがわかった。俺たち闇に紛れて生きるモノにとっては忌避すべき赤いオーラを、肌がひりひりするほど放っている。
 俺だって馬鹿じゃない。すぐさまそこらに並べられている人間どもの玩具に変身して、素知らぬ顔でくたりとして見せた。
 さっさと行きすぎてくれよ。
 そう思っていたのに、幼女はあろうことか俺の目の前で立ち止まった。
「ママー! ももちゃん、この子がいい!」
 その小さな指が俺を指している。冷や汗が背を垂れる。
「あらあら、そうなの。じゃあ、その子にしましょう」
「わーい!」
 俺はくたりとなったまま小さな手の中に握られながら、家に運ばれるまでのどこかで逃げてしまおうと考えを巡らせた。
 が、続く言葉に全ての力が抜けていくのを感じた。
「この子はねえ、いちごちゃんっていうの! 可愛い可愛いお人形の、いちごちゃん!」
 力のある人間に付けられた名前は、そのまま俺たちの存在を縛り付けてしまう。
 俺は本当に、幼女の言った通りの物になってしまった。

 というわけで、俺はそれから彼女の「いちごちゃん」として生きている。
「いちごちゃん、お茶はいかが?」
 小さすぎるティーカップを握らされながら、俺は微笑む。
「いちごちゃん、可愛い!」
 最近、この在り方も悪くない気がしてきた。
4/7ページ
スキ