冬の束(十二〜二月)

 会員制サロン『永遠の夢』は、日頃の疲れを癒すのにうってつけの店だ。高層ビルと高層ビルとの間、迷路のような裏路地を通り抜けて、どこの建物の裏手かも分からない場所に突如として現れる小さな洋風の扉が、『永遠の夢』の入口だ。
 店内は一見ごく普通のバーに見えるが、最近絶滅したと言われるキャバレーのようなステージが、カウンターと反対の側に設置されている。客はゆったりと寛ぎながら、レビューが始まるのを待つのだ。
 定刻になると、元々絞られていた照明が更に明るさを落とし、幕が開く。血のように真っ赤な着物を身に纏った少女が舞台袖から顔を出し、蝶のように舞いながら、ゆっくりと全身を現す。一拍遅れて、その少女と寸分違わぬ容貌の少女が、先の少女の後ろに重なり、寸分違わぬ動きをする。そして、その後ろにもまた、同じ見目の少女が。十人の同じ姿形をした麗しい少女が、まるで最前の少女の影か残像のように動き、正に毛ひとつの狂いすら見せない。衣ずれの音にすらズレがない。あまりにも全てが同一過ぎるので、後ろの少女たちは映像か何かなのでは、と怪しささえ覚えてきた頃に、彼女たちは場所を入れ替えながら舞い始める。懐から取り出した扇を優雅に動かしながら、互いの頬に手を沿わせ、抱き合い、接吻をする。黒髪を艶やかに乱し、しかしその呼吸は乱すことなく、たおやかな指が踊り、白い腿が覗き、細い喉元が露わになる。そのパーツひとつひとつはやはり全て同一で、そして全てが美しい。
 紅の照明に照らされて、十人の少女たちが演じる夢は、訪れる客の目や耳や心を奪って放さない。客は息も忘れてレビューに見入り、少女たちがまた舞台袖へ消えてゆくまで、惚けたような顔を晒すのだ。
 あの少女たちが何者なのか、誰も知らない。バーテンダーは雇われで、主人とは会ったこともないと言う。しかし、古参の客なら皆知っている。あの少女たちはこれまで一度もレビューを休んだことがないし、間違えたこともない。そして、メンバーが入れ替わったことも。もう十年ほど通い詰めている私が保証する。
 サロン『永遠の夢』は、正に永遠の夢を提供しているのだ。
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