秋の束(九〜十一月)
高校に入学して、それまでの陰気だった自分から脱却したかったぼくは、大幅にイメチェンして、今までなら怖くて入れなかったようなグループに入った。
見下されることはなくなったけれど、それまで聞いたことのない単語が飛び交うのには未だに慣れず、友達の話について行くのもひと苦労だ。今も、クラスメイトの話をしながら彼らが意味ありげに目配せを交わしている、その、ありげな意味が分からない。
「ツキシタ、あいつな……凄いよな」
「夜だろ。凄いというか、ありゃ危険だよ」
ツキシタは美人だ。まだ中学生の子供っぽさを大半の生徒が引きずっている中で、彼女だけ一足飛びで大人になってしまったような雰囲気がある。でも愛想がなくて、誰が話しかけてもひと言しか返ってこない。だから学校では自然とひとりでいることが多い。
そのツキシタが、夜は凄いという。その凄い、というのが分からない。何が凄いのか。教えてとは言えず、さも分かっているように神妙な顔で頷いてはみたものの、全くついていけなかった。
その日の夜、皆には内緒で通っている塾からの帰り道で、私服のツキシタを見かけた。遊具のない自然公園で、外灯がほとんどない小高い丘にひとりで座って、空を見上げている。
「何してるの」
思わず声を掛けていた。ツキシタはチラリとぼくを見て、指を上に向けた。
「星を見てる」
目が慣れてくると、確かに夏の星が瞬いているのが分かった。本当だ、と呟くと、ツキシタは無言で、自分の隣のスペースをポンポンと叩いて示した。促されるまま座ったぼくは、それからときを忘れて、ツキシタの星語りに聞きふけった。その合間に、ぼくの友達も、こうして時折、彼女の星座解説を聴きにやって来るのだということが判明した。
ツキシタの天文知識は尽きることを知らず、気がつけば軽く数時間が経ち、ポケットから取り出したスマホには、親からの着信が何十件も届いていた。慌ててそれに返信しながら、昼間、友達が言っていたことを思い出す。
「危険って、こういうことか……」
「何の話?」
小首を傾げるツキシタに笑って、ぼくは夏がまだ終わらないことを直感した。
見下されることはなくなったけれど、それまで聞いたことのない単語が飛び交うのには未だに慣れず、友達の話について行くのもひと苦労だ。今も、クラスメイトの話をしながら彼らが意味ありげに目配せを交わしている、その、ありげな意味が分からない。
「ツキシタ、あいつな……凄いよな」
「夜だろ。凄いというか、ありゃ危険だよ」
ツキシタは美人だ。まだ中学生の子供っぽさを大半の生徒が引きずっている中で、彼女だけ一足飛びで大人になってしまったような雰囲気がある。でも愛想がなくて、誰が話しかけてもひと言しか返ってこない。だから学校では自然とひとりでいることが多い。
そのツキシタが、夜は凄いという。その凄い、というのが分からない。何が凄いのか。教えてとは言えず、さも分かっているように神妙な顔で頷いてはみたものの、全くついていけなかった。
その日の夜、皆には内緒で通っている塾からの帰り道で、私服のツキシタを見かけた。遊具のない自然公園で、外灯がほとんどない小高い丘にひとりで座って、空を見上げている。
「何してるの」
思わず声を掛けていた。ツキシタはチラリとぼくを見て、指を上に向けた。
「星を見てる」
目が慣れてくると、確かに夏の星が瞬いているのが分かった。本当だ、と呟くと、ツキシタは無言で、自分の隣のスペースをポンポンと叩いて示した。促されるまま座ったぼくは、それからときを忘れて、ツキシタの星語りに聞きふけった。その合間に、ぼくの友達も、こうして時折、彼女の星座解説を聴きにやって来るのだということが判明した。
ツキシタの天文知識は尽きることを知らず、気がつけば軽く数時間が経ち、ポケットから取り出したスマホには、親からの着信が何十件も届いていた。慌ててそれに返信しながら、昼間、友達が言っていたことを思い出す。
「危険って、こういうことか……」
「何の話?」
小首を傾げるツキシタに笑って、ぼくは夏がまだ終わらないことを直感した。