春の束(三〜五月)
三月三日には品評会が行われる。参加者たちが手塩にかけて育てた、花娘の品評会だ。上等の着物に身を包み、一分の隙もない化粧と香で飾り立てられた花娘たちは、観覧者の前にずらりと並び立つ。無遠慮で不躾な無数の目に晒されながらも、彼女らは眉ひとつ動かさず、指示された姿勢を崩さない。ある少女は風に吹かれた花弁から顔を守るように扇をかざし、別の少女は、はだけかけた裾を恥じらいながら直す、その瞬間に留められたかのように動かない。観覧者たちは動かない彼女らの姿を色々な角度から吟味し、ひそひそと囁きを交わし、これぞと思った少女の着物の袂や衿元、帯の間に、薄桃色の和紙で作られた花弁を差し入れていく。さながら桃の花を身体から咲かせたような花娘たちは、午前中から昼ごろまで、そうして立っている。
午後になるとそれぞれの花弁は回収され、舞台は室内へと移る。大広間を横切る緋毛氈を、娘たちはひとりひとり、己の雅さを最も効果的に表現できるように歩く。一歩一歩、薄氷を踏むかのごとく静かに行く少女もいれば、軽やかに舞いながら行く少女もいる。観覧者たちは席上からじっと品定めし、眼鏡にかなった少女に、濃桃色の和紙で作られた花弁を散らす。桃の渦に巻き込まれたような少女たちは、そのまま別室で花弁の数を勘定される。
すべての少女が披露を終え、再び、緋毛氈の上に舞い戻る。花弁の少なかった者から順に、白く美しいお千代口を手渡され、くいっとひと息に煽る。甘い最後の吐息を散らしつつ、美しい少女たちはひとり、またひとりと、ぱたぱたと倒れてゆく。息を引き取った少女の育て主たちは、嘆息とともに、自らが一年掛けて育て上げた娘をも上回ったのはどの娘か、と興味深げに進行を見守る。
やがて、最後にひとりだけが残る。この年の、最上の花娘だ。ある者は親を失くし、ある者は親に売られ、帰る場所もなく、その美に命を懸けざるを得なかった哀しい少女たちの頂点に立った彼女には、これから富豪の元に嫁ぐという「幸い」が待っている。
だから、最後の花娘はいつも笑う。それが己の最後だと、分かっているから。
※花言葉「あなたに夢中」。また、花を愛でるために品種改良されたところと、ひなまつりから着想しました。
午後になるとそれぞれの花弁は回収され、舞台は室内へと移る。大広間を横切る緋毛氈を、娘たちはひとりひとり、己の雅さを最も効果的に表現できるように歩く。一歩一歩、薄氷を踏むかのごとく静かに行く少女もいれば、軽やかに舞いながら行く少女もいる。観覧者たちは席上からじっと品定めし、眼鏡にかなった少女に、濃桃色の和紙で作られた花弁を散らす。桃の渦に巻き込まれたような少女たちは、そのまま別室で花弁の数を勘定される。
すべての少女が披露を終え、再び、緋毛氈の上に舞い戻る。花弁の少なかった者から順に、白く美しいお千代口を手渡され、くいっとひと息に煽る。甘い最後の吐息を散らしつつ、美しい少女たちはひとり、またひとりと、ぱたぱたと倒れてゆく。息を引き取った少女の育て主たちは、嘆息とともに、自らが一年掛けて育て上げた娘をも上回ったのはどの娘か、と興味深げに進行を見守る。
やがて、最後にひとりだけが残る。この年の、最上の花娘だ。ある者は親を失くし、ある者は親に売られ、帰る場所もなく、その美に命を懸けざるを得なかった哀しい少女たちの頂点に立った彼女には、これから富豪の元に嫁ぐという「幸い」が待っている。
だから、最後の花娘はいつも笑う。それが己の最後だと、分かっているから。
※花言葉「あなたに夢中」。また、花を愛でるために品種改良されたところと、ひなまつりから着想しました。