ふたつ星には届かない

 上級学校へ進んでからも一緒に勉強を重ねて、俺たちはすぐに宇宙船員資格を得た。これは偶然だが同じ会社に入社し、数年後には組んで各星への運輸運送を担当することになった。
「ポル! 午前中には出発しないと、予定日時までに間に合わないぞ。さっさと来いよ!」
 その日の目的地はそれほど遠くはない星だったが、少しのんびりしたところのあるポルはいつも遅れがちだった。出発間際までのんびりと間食していたりするので、俺は早めに声をかけるようにしていた。事務所の机からポルがふにゃふにゃした声で返事するのを確認し、俺は準備に奔走する。
「ダイチはポルと違ってテキパキしているが、ポルはポルで落ち着きがあって、いいコンビだよな」
 船長が笑顔で言うのをくすぐったい気持ちで聴きながら、俺は船に乗り込んだ。遅れて来たポルが最終点検を行い、目的の星へと出発する。
「今回の星は初めて行く星だよな。楽しみだなあ」
「……そうだね」
 組んで仕事に出るようになって半年以上は経つが、俺はポルが相変わらずちっとも楽しくなさそうなのに気がついていた。流石にもう子供ではないのでポルも敢えてそんなことは言わなかったが、きっと子供の頃にした質問をすれば、あの時と同じ答えを返したことだろう。
 なぜだろう。
 広大な宇宙空間へ躍り出る時、俺はいつも胸が高鳴るのを感じる。きっかけは些細なことだったかもしれないが、星について勉強を重ねる間に、元々好きだった星のことが、もっと好きになっていた。次はどんな星へ行けるだろう。そこではどんな文化が花開いていて、どんな人たちがいて、どんな楽しい出来事が起こるだろう。
 そういうワクワクを、ポルは感じないのだろうか。
「なあ、ポル。着いたら名物のデュワラシコバーガー食べに行こうぜ。香ばしくて美味いらしい」
 俺が操縦桿を操作しながら言い、ポルはメーター類に目を凝らしながら頷く。
「うん、いいよ。確かエビみたいなやつだっけ」
「そうそう。地球のエビの五倍くらいあるやつ」
 そんな会話を交わすのも、俺にとっては楽しみの一つだった。小さな頃から一緒に過ごしてきた親友と同じ職場で仕事をできるのは、嬉しかった。
 その星に降り立って荷運びをしている最中だった。ポルが行方不明になったのは。
 星に降り立った当日、運送会社へ向かっている時、トラックの助手席でポルが「あ」と呟いた。俺がそちらを見た時には、トラックが走っている最中だと言うのに、ポルはドアを開けて飛び降りようとしていた。
「危ねえ! 何やって」
 慌てて俺がスピードを落とすと、ポルはうまいこと道路脇の草むらに着地して、そのまま駆け去ってしまった。そこは普通の市街地で、ポルが走っていった先にはトラックが入れるような道路はなく、追いかけられない俺は途方に暮れてしまった。
 一体ポルは何を見たのだろう。どういうつもりで行ってしまったのだろう。
 そして、……戻ってくるつもりがあるのだろうか。
 わからないことばかりの中、俺は初めて一人で運送会社へ行き、一人でホテルへ戻った。それから出張期間として申告している日数だけ待って、空港でも最後まで粘って、よく見知った姿が現れないことを確認して、地球へ戻った。
 ポルはそれから十年間、戻ってこなかった。
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