ふたつ星には届かない

 ポルは俺の親友で、俺はポルの親友だった。少なくとも俺は、そう思っていた。そして本当に、そう思っていたのは俺だけだった。
 人ひとり座って操縦桿を動かせばそれだけで空間がいっぱいになってしまうようなコクピットから、薄茶けた大地が見えた。これまでいた、ただひたすら広大無辺で、暗く吸い込まれそうな宇宙空間とは、少しの間おさらばだ。
 慎重に空港に着陸させた一人用宇宙船から降りて、機体の下部から突き出たハンドルを握ったまま、ほんのわずかにジャンプした。自分の身につけている重力装置の設定が間違っていないか、反動によって確認してから手を離す。順路に従って歩き、積荷受け取り場所で暇を持て余している時に、後ろから声をかけられた。
「よう、ダイチ」
 振り向くと、よく知った顔が立っていた。この星では普段着である薄手の一枚布を身につけて、頭にも日よけの布を何重にも巻き付けている。ニカっと笑った顔の端々には皺が刻まれており、彼が生きてきた年数と経験を物語っている。
「船長。お久しぶりです」
 俺は慌てて頭を下げた。宇宙船員資格を得てから最初にお世話になった、星間運輸会社の大先輩だった人だ。昔よりも髪や髭には白いものが多くなったが、快活さは健在のようだ。
「元気そうで何よりだ。しかしお前も、地球からこんなに遠いところまで来られるようになったんだなあ」
 船長は目尻の皺を深くした。俺が彼の世話になっていたのは十年前の駆け出しの頃で、それから様々な会社での経験を経て、船員資格も二等ほど上がった。だから今では、少年の頃に夢見るばかりだった遠宇宙の宙域も航行することができている。
「ありがとうございます。船長のご指導のおかげです」
 俺の言葉に、船長は首を振って笑った。
「おれは何もしてないよ。それで、ここへは仕事で?」
「はい。最近では星間運輸も個人利用が増えてきてますね。今日のもそういうのばっかりです」
「その制服は一等星運輸か。ってことは……ここから先の運送もやるのか。大変だなあ」
 船長が眉根を顰める。確かに俺の所属する一等星運輸は星間運輸だけでなく送り先の星内での運送も担っている。基本的にはその星の運送会社に引き継ぎを行う多くの星間運輸会社よりも担当距離や工程が多く、過酷な職場であることは間違いない。
 だがその分、メリットもある。
「送り先での運送は、最大期限までに間に合えばいいので……実質、観光しながらのんびり働けるんで、案外、楽なもんですよ」
「へえ、そうなのか。知らなかったな」
 船長は深く頷いて納得した様子だが、すぐに何かに思い当たったように目を光らせた。
「ダイチ、ひょっとして……まだ探してるのか」
 その言葉には、深い気遣いの念が込められていた。俺は目を逸らしながら、軽く頷いた。
「ええ、まあ」
「そうか。……幸運を祈るよ」
 船長はひとしきり俺の身の安全を気にかけてくれて、最初のような豪快な笑いを残して立ち去った。まさかこんな遠宇宙の端っこで会えるとは思わなかったが、それは向こうも同じだろう。
 それに。
「まさか十年経ってもまだ行方不明になった親友を探してるなんて、驚いたろうな」
 自嘲気味に呟いたところに、待っていた積荷が流れてきた。
 積荷は空港の搬出カートが運んでくれる。軽いもので数キロ、重いものでは数百キロある大小五つの荷箱をアームで積み入れてくれたカートを従えて、俺は空港を出た。待機していたトラックに積荷を載せて、ゆっくりと市街地を目指す。
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