女難

 目覚めると病院にいた。混乱してベッドから降りようとする俺を制してくれた医者が、手短にことのあらましを教えてくれた。
 どうやらヒガシは死ぬ間際、スマホを録画状態にしていたそうだ。
「そこに一部始終が収められていたらしいよ。彼女は友人君の胸を刺し、君を追って部屋から出た。そして君と共に階段から転げ落ち、打ちどころが悪く死んだ。どうやらそういうことらしい」
 また改めて警察の人が来るだろうけれども、今はとにかく安静にしなさい、と医者は去った。俺はその日、ヒガシのためにひと晩じゅう泣いた。
 それからは平穏な静養の日々が続いた。階段に打ちつけて全身打撲が酷く、とても退院できる状態ではなかったのだ。毎日家族が見舞いに来てくれ、本当に久しぶりに落ち着いた気持ちで過ごすことができている。
 夕暮れ、横たわり体の痛みに耐えていると、いつものように看護師が体調確認にやって来た。
「いつもありがとうございます」
 そう声をかけると彼女はにっこりと笑った。
「お礼なんて。小風君、優しいのね」
 そう言った声が、あの女そっくりだった。
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