女難
その女から声をかけられたのは、大学の学校祭が終わった週明けだった。廊下で後ろから呼び止められたのだ。そこには見覚えのない女が立っていた。
セミロングの黒髪を無造作に垂らし、地味な色のワンピースを着た女は思い切ったように言った。
「あ、あの……! この間はどうも……!」
「この間?」
「あ、アイスを……」
その言葉でようやく分かった。確かに学校祭の人混みの中、誰かの持っていたアイスが通りがかりの女の服に着きそうになったのを、咄嗟に手で庇ったことがあった。
「ああ、あの!」
俺の反応に女は笑った。
「お気に入りの服だったんです。ありがとうございました」
「いえいえ、無事でよかったです。それじゃ」
困っている人を助けるのは性分だけれど、改めて感謝されるのは嬉しいものだ。そう思いながら次の講義が行われる教室に入り、いつも座る最前列の席にノートを広げた。次の講義の教授はスライドに文字を羅列する人なので、前に座らないと内容を掴めないのだ。今のうちに前回の内容を確認しておこう。リュックの中身を見ようと半身を捻った時に、気がついた。
斜め後方の席にさっきの女が座り、こちらを見ている。
「……?」
あの人、前からこれに出ていただろうか。小人数の講義だから、受講者のことは把握しているつもりだったのだが。
違和感を抱きつつ会釈すると、向こうも返してくれた。……今まで気づいていなかっただけか。
講義後、構内のコンビニでパンを買い、次の講義室で簡単に食事を済ませる。この時間は食堂が混んでいるので、これが一番手軽だ。俺と同じような考えの学生がちらほらいる中に、あの女がいた。……また?
この大学は地域でも有名な大規模校で、学生の数だって多い。当然、講義数や教室も多く、同学科同専攻でない限り同日に複数の講義が被るなんて珍しい。何よりそんなに同じ講義をとっている人に今まで気が付かなかったのが一番不思議だった。
そんな疑問は、一日の終わりにはより確固たるものとなっていた。なぜなら、その後の講義全てにあの女がいたからだ。
セミロングの黒髪を無造作に垂らし、地味な色のワンピースを着た女は思い切ったように言った。
「あ、あの……! この間はどうも……!」
「この間?」
「あ、アイスを……」
その言葉でようやく分かった。確かに学校祭の人混みの中、誰かの持っていたアイスが通りがかりの女の服に着きそうになったのを、咄嗟に手で庇ったことがあった。
「ああ、あの!」
俺の反応に女は笑った。
「お気に入りの服だったんです。ありがとうございました」
「いえいえ、無事でよかったです。それじゃ」
困っている人を助けるのは性分だけれど、改めて感謝されるのは嬉しいものだ。そう思いながら次の講義が行われる教室に入り、いつも座る最前列の席にノートを広げた。次の講義の教授はスライドに文字を羅列する人なので、前に座らないと内容を掴めないのだ。今のうちに前回の内容を確認しておこう。リュックの中身を見ようと半身を捻った時に、気がついた。
斜め後方の席にさっきの女が座り、こちらを見ている。
「……?」
あの人、前からこれに出ていただろうか。小人数の講義だから、受講者のことは把握しているつもりだったのだが。
違和感を抱きつつ会釈すると、向こうも返してくれた。……今まで気づいていなかっただけか。
講義後、構内のコンビニでパンを買い、次の講義室で簡単に食事を済ませる。この時間は食堂が混んでいるので、これが一番手軽だ。俺と同じような考えの学生がちらほらいる中に、あの女がいた。……また?
この大学は地域でも有名な大規模校で、学生の数だって多い。当然、講義数や教室も多く、同学科同専攻でない限り同日に複数の講義が被るなんて珍しい。何よりそんなに同じ講義をとっている人に今まで気が付かなかったのが一番不思議だった。
そんな疑問は、一日の終わりにはより確固たるものとなっていた。なぜなら、その後の講義全てにあの女がいたからだ。