女難

「おや。女難の相が出てますな」
 地下街の片隅、「手相」と書かれた看板横に椅子と机だけ置いた簡易店舗で、人のよさそうな老爺は俺の右手を見つめた。春先、軽装の人々が足繁く行き交う、夜の最も賑やかな時間帯。バイトの帰りに寄ってみただけだったのだが、聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
「じょなん」
「女性関係で苦労するってことです。お客さん、誰にでも優しいでしょ。変な女には気をつけなさいよ」
 まあまだ若いから失敗もいい経験でしょう、と笑う老爺に千円札を支払った。
 今思えば、あと千円でも支払ってもっと話を聞いておくんだった。
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