光鍋パは終わらない
居間に着くと、思った通り、畔先輩が成仏しかけていた。他のメンバーが見守る中、毒気の抜けた顔で辞世の句を遺そうとしている。
「今日は楽しかった。光鍋、最高だったな。生きている間には思いつきもしなかったアイディアだったが、死んで何年も経ってから思いつくとはね。……お陰でようやく、成仏できそうだよ」
不慮の事故で大学在学中に亡くなった畔先輩は、所属していた部活でもっとみんなと楽しみたかったという未練のため、幽霊になった。彼女の突拍子もない企画に部員たちが付き合っているのは、彼女の気持ちを満足させられれば、成仏してくれると知っているからだ。
「向こうでも楽しく部活やってください」
「なんだかんだで俺たち楽しかったっす」
メンバーの言葉に頷きながら、畔先輩の姿が薄くなってゆく。ああ、今度こそ。今まで何度もすんでのところで失敗してきたけれども、今度こそ、ちゃんと……。
ガチャリ。
背後で、ドアの開く音がした。
「あれ? 棚沢、なんでここに」
驚いたような声と共に、祝子先輩が入って来た。それは私のセリフだ。
「祝子君……」
畔先輩が、祝子先輩を見つめる。見つめてしまった。
また失敗だ。
畔先輩の、薄くなりかけていた体が元に戻る。せっかく忘れていたらしい未練を思い出してしまったから。名前が似ているというだけで弟のように気にかけているらしい、祝子先輩という未練を。
畔先輩は復活した。和らいでいた視線に、またギラギラが戻った。
「そういえば私にはまだやりたいことがあった。思い出したよ。まだまだ成仏なんてできない」
私たちはちょっと肩を落とし、事情のわかっていない祝子先輩だけオロオロしている。
でもまあ、仕方ない。さっきのメンバーの言葉ではないけれど、畔先輩のいる部活は、なんだかんだ言って楽しいのだ。
「じゃあ手始めに、棚沢君。君は寝ていたからな、残った鍋を一緒につつこうじゃないか」
前言撤回。やっぱりこの人はさっさと成仏させるべきだ。
「それなら、祝子先輩がもっと食べたかったと言ってましたよ」
「なっ……? 棚沢、何を」
祝子先輩は慌てふためくが、畔先輩は嬉しそうに目を細め、祝子先輩の腕をがっしりホールドしてしまった。
「畔先輩、ぼくはもう食べましたって……! 先輩……!」
祝子先輩の悲鳴と、畔先輩の笑い声が、深まっていく夜に響き渡った。
「今日は楽しかった。光鍋、最高だったな。生きている間には思いつきもしなかったアイディアだったが、死んで何年も経ってから思いつくとはね。……お陰でようやく、成仏できそうだよ」
不慮の事故で大学在学中に亡くなった畔先輩は、所属していた部活でもっとみんなと楽しみたかったという未練のため、幽霊になった。彼女の突拍子もない企画に部員たちが付き合っているのは、彼女の気持ちを満足させられれば、成仏してくれると知っているからだ。
「向こうでも楽しく部活やってください」
「なんだかんだで俺たち楽しかったっす」
メンバーの言葉に頷きながら、畔先輩の姿が薄くなってゆく。ああ、今度こそ。今まで何度もすんでのところで失敗してきたけれども、今度こそ、ちゃんと……。
ガチャリ。
背後で、ドアの開く音がした。
「あれ? 棚沢、なんでここに」
驚いたような声と共に、祝子先輩が入って来た。それは私のセリフだ。
「祝子君……」
畔先輩が、祝子先輩を見つめる。見つめてしまった。
また失敗だ。
畔先輩の、薄くなりかけていた体が元に戻る。せっかく忘れていたらしい未練を思い出してしまったから。名前が似ているというだけで弟のように気にかけているらしい、祝子先輩という未練を。
畔先輩は復活した。和らいでいた視線に、またギラギラが戻った。
「そういえば私にはまだやりたいことがあった。思い出したよ。まだまだ成仏なんてできない」
私たちはちょっと肩を落とし、事情のわかっていない祝子先輩だけオロオロしている。
でもまあ、仕方ない。さっきのメンバーの言葉ではないけれど、畔先輩のいる部活は、なんだかんだ言って楽しいのだ。
「じゃあ手始めに、棚沢君。君は寝ていたからな、残った鍋を一緒につつこうじゃないか」
前言撤回。やっぱりこの人はさっさと成仏させるべきだ。
「それなら、祝子先輩がもっと食べたかったと言ってましたよ」
「なっ……? 棚沢、何を」
祝子先輩は慌てふためくが、畔先輩は嬉しそうに目を細め、祝子先輩の腕をがっしりホールドしてしまった。
「畔先輩、ぼくはもう食べましたって……! 先輩……!」
祝子先輩の悲鳴と、畔先輩の笑い声が、深まっていく夜に響き渡った。
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