5話 十二月二十五日は外に出ない

 あの時のエンジェルが、あいつなのだ。
 窓を閉めて、この日特有の、悪魔の肌を刺す空気を締め出す。十二月二十五日には、外に出ない方が良い。あの年以降、おれはずっとそうしてきた。敵に助けられたあの日、おれは初めて天使というものに興味を持った。いや、そう思い込んできた。
 だが、違った。その日の記憶が薄れても、おれの中で、エンジェルという天使に対して感じたあの眩しさは薄れなかった。天使というものへの理解がいくら深まろうとも、あの天使の魂を触りたいという感情は消えなかった。
 おれはあの時から、ずっとあいつのことを。
 古風な暖炉に向かって指を鳴らし、火をつける。照明としての意味しか持たない炎を、ぼうっと見つめる。
 あいつは今、別の名前、別の姿をとっている。おれも、無論、少女の姿などしていない。だから、さっきまで気が付かずにいた。なぜ、おれがあいつに、数多いる天使の一人に過ぎないあいつに、ここまで惹かれてしまうのか。その理由が今、分かった。

 季節外れの羽虫が一匹、炎に飛び込んで行く。
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