45話 ある使い魔のクリスマス

 誰かにそっと肩を揺らされて、目が覚めた。ベッドの上で、絵本を腕の下に敷いたまま眠っていたみたいだった。窓の外は、もう暗くなり始めている。雪が止まずに続いている。
「ダイアナ、起きたな」
「……お兄様?」
 ベッドの横に立っていたのは、お兄様だった。いつ見ても、どんな俳優より格好いい。でも、どうして私の部屋にいるんだろう。目をこすりながら起き上がると、お兄様の隣に、もうひとり立っているのに気がついた。白くて、金色に輝いていて、お美しい、天使様。
「天使様!?」
 慌てて髪の毛を整えて、ベッドの上に座り直す。
「ど、どうして二人とも私の部屋に?」
 焦りながら尋ねると、お兄様がちょっと笑う。うーん、やっぱり格好いい。悪魔なんてやめて芸能人になればいいのに。
「今日は一日引きこもって過ごそうと思っていたんだが、エンジェルに連れ出されてな。あちこち回って、色々お土産を調達してきたから……」
「ダイアナちゃんも一緒に食べたら楽しいんじゃないかなって思ったんだ。どうかな」
 お兄様の後を、天使様が引き継いで、私ににっこり笑いかける。その神聖さにドギマギする胸が、暖かくなるのが分かった。
「私が? お兄様と天使様と一緒に、クリスマスを?」
「うん。ダイアナちゃんさえ、嫌じゃなければ」
「で、でも……二人の邪魔に……」
 クリスマスを恋人と二人きりで過ごす人たちがたくさんいることくらい、私だって分かってる。私くらいの年頃だと家族で過ごすのが当たり前だけれど、二人はそうじゃない。それに、何より、二人は私の家族では。
 けれど、お兄様が「あのな」と口を開いた。
「俺たちはクリスマスだろうがそうじゃなかろうが関係なしに、いつだって二人きりで過ごせるんだ。変な気を回さなくていい」
「それに、ダイアナちゃんは元人間だろう? ここでは一緒にクリスマスを祝う相手もいないんじゃないのかな。一度、ゆっくりお話ししてみたかったし、ね、いいだろう」
 やっぱり、お兄様は優しい。天使様も、もちろん、お優しい。二人の気持ちが嬉しくて、胸の奥の暖かなものが、瞼を通して溢れ出た。
「だ、ダイアナ? 何を泣いて……ああ、子供っていうのは訳が分からん」
「こら、ラブ、そんなことを言うもんじゃない」
 二人の掛け合いが面白くて、私は泣きながら笑う。困り果てたような顔のお兄様と、全て分かっていると言う様に微笑む天使様に、頷いて見せた。
「一緒に、お祝いさせて欲しいわ」
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