45話 ある使い魔のクリスマス

 クリスマスは毎年、家族で祝っていた。ママがおばあちゃまから習ったという伝統のケーキと、パパが買ってくるフライドチキン、それにポテトやサラダなんかを囲んで、綺麗に飾り付けたツリーを見ながら、暖かい部屋で過ごすのだ。ママもパパも普段忙しいのに、この日は仕事を絶対に入れず、私に用意したプレゼントを直接、手渡してくれる。私も、今はあまりお小遣いがなくて何も用意できないけれど、いつかアルバイトをして、ママパパに何かを贈るんだ。
 そう、思ってた。
 窓の外にちらほら降り始めた雪を見ていると、昨年までの楽しかった思い出が蘇ってきて、鼻の奥がツンとする。
 お兄様の使い魔になって初めて、私は奇跡も魔法も受け付けない特異体質なのだと報された。お兄様は、そういう特殊な体質が役に立つと思ったから契約したんだとか言っていたけれど、多分、それだけじゃないと思う。あのお美しい天使様に似ているというのは、きっと本当だろうけれど、……お兄様は自分でも気がついていない優しさを持っているんだと、私は思う。悪魔に優しさなんて、とお兄様は言うだろうし、他の使い魔の皆にも言うことはできないけれど……あの天使様なら、きっと分かってくれるだろう。
 とは言え、お兄様の優しさは、限定的なものでしかないだろうというのも分かっている。使い魔になってから周りの皆に教わった悪魔としての仕事は、残酷だし、非道だ。そもそも、ママパパを襲ってなり替わったのも、お兄様の仲間の悪魔だと言うのだから。「お前にそんな仕事はできないに決まっているから、させたりしない」と、お兄様は言ってくれたし、そういうところも、やっぱり優しいと思うのだけど。
 そんな悪魔の仲間になったので、クリスマスを祝うなんてことはできそうにない。私自身は特異体質を持ったままのようで、クリスマスに浮かれた街の中を歩いたとしても、他の皆のようにダメージを負ったりはしない。自分自身で使う魔法以外、私に作用する霊的な力は存在しないのだとか。だから、ひとり部屋の中でクリスマスを祝う分には、問題ない。ただ、……そんな気になれないだけ。
 ひとりでツリーを飾っても、ひとりでケーキやご馳走を食べても、それはクリスマスじゃない。プレゼントだって、誰からも贈られることはない。
「あーあ、つまんないの」
 クリスマスを祝うどころか嫌がる悪魔は、この日は大人しくしているらしい。使い魔の皆も、一日の休みをもらって各自の棲み家に引っ込んでしまった。お兄様はひとりで引きこもって過ごすと言っていたし、邪魔するわけにもいかない。私は部屋で、昔よくママに読んでもらった絵本を取り出して眺めるばかり。サンタが、悪いことばかりする男の子にもプレゼントを置いていく話が気に入って、何度もママにせがんだっけ。そういえばクリスマスには、パパがサンタの格好で、眠っている私を起こして笑わせてくれたこともあった。
 ああ、あの頃は本当に。
「ママ……、パパ……」
 プレゼントの袋を抱えたサンタの絵が滲む。揺らいでぼやけて、やがてそのまま他のいろんなものと一緒くたになって、幸せだった、かつてのクリスマスの夢が始まった。
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