44話 十二月二十五日は外に出よう

 ジャケットを羽織り、コートを着込む天使と並んで寝台から立ち上がる。閉じ切っていたカーテンを開けて昼の暖かな陽光に目を細めながら、人間のように昂揚し始めた自らの気持ちに気がついて、おかしくなる。黒いマンションの玄関から一歩、踏み出す。人々の陽気な雰囲気と共に、街中に満ちた信仰の空気が、分厚いガラス越しに見ているように遠く感じられる。俺の周囲を取り囲んだ、天使の聖なる空気が、俺を守っているのだ。
「ああ、本当だ。これなら、全然大丈夫だろう」
「よかった」
 俺の腕に自身の腕を絡めながら、天使は微笑む。歩き出すと、白くて綿毛のような雪が、ちらほらと降り出した。晴天の温かい光を反射しながら、静かに路上に吸い込まれていく。人間の気象予報ではまったく予測されていなかった天気だ。……これは。
「天使サマ」
 俺の視線に、天使は悪戯がバレた子供のように、ちろっと舌を出した。
「こんな日くらい、綺麗な雪が降らなきゃ、嘘だろう」
「違いない」
 奇跡的なホワイトクリスマス。恐らくこの雪は、美しいままに降り積もり、明日の朝、子供たちを歓喜させることだろう。
 天使のささやかな奇跡が羽根の如く舞い降りる中、数世紀ぶりの十二月二十五日が始まった。
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