41話 treat and treat

 人間たちが寒さに体を震わせる季節が近づいてきた。月末のイベントに合わせて天使を誘ったのだが、とても申し訳なさそうな声で断られてしまった。電話越しでも、あいつがすまなそうにしているのが目に見える。
「その日はほら、ハロウィンだろう。人間の知り合いの店で、子供向けの催しの手伝いをしなくてはいけないんだ……本当に済まない」
 あいつに関わりそうな用事やイベントごとは全てチェックしているつもりだったが、どうやら俺の情報に漏れがあったようだ。大きなため息をつきたい気持ちをこらえて、努めて明るい声を絞り出す。
「タイミングが悪かったみたいで、こちらこそ申し訳ない。また、近いうちに誘わせてくれ」
「ああ、是非お願いするよ。何か埋め合わせをさせてくれ。それじゃあ」
 電話が切れる。俺はスマートフォンを放り出して、椅子に深く座り直した。否、そのままずるずると下に滑り落ちていく。
「お、お兄様……大丈夫?」
 いつの間にか側に現れていたらしいダイアナの声に、我に返る。眩い金髪のツインテールを揺らして、青く大きな瞳が俺を心配そうに見つめていた。
「大丈夫だ。俺が大丈夫じゃないように見えるのか」
「見えるわ」
 即答され、俺は黙って再び座り直した。今度はもう、滑り落ちはしない。腹に力を入れないと危ないが。
「ところでお兄様、前に頼まれていた雑用だけれど……」
「ああ、あれはもういい。お前が全部食べていいぞ」
 ダイアナには菓子を用意させていたのだが、天使が来られないのでは意味がない。一緒に人間の行事を楽しんでみようかと思っていたのだが……。
 俺の様子に、ダイアナは「あらあら」と首を振った。
「お兄様、よっぽどショックなことがあったみたいね。あの、お美しい天使様に振られでもしたの?」
「振られるわけがない。でも、そうだな……ああ、振られたようなものだ」
 言いながら、自分の言葉に落ち込む。そうして俺が軽い自閉モードに陥っている間に、ダイアナは他の使い魔から事情を聞いたらしい。数分後、楽しそうな顔でテーブルに菓子を並べ始めた。
「落ち込んでいるお兄様の前で菓子を食べるか……」
「いいえ、お兄様。私、お兄様のために考えてみたの。天使様が来られないのなら、お兄様がそこに行けばいいのよ」
「でも、あいつは人間の手伝いに……」
 ダイアナは困ったような顔で、俺を見た。
「お兄様って本当に、あの天使様のことになったら別人なのね。別に、その店のことなんて構わないで、天使様と一緒に参加しちゃえばいいだけの話だわ」
 俺は、呆気に取られて、天使に似た、けれども天使とはやはり違う少女の顔を見つめた。
「ダイアナ、お前……いつの間に、そんなに悪魔らしくなったんだ?」
「お兄様の使い魔だもの、当たり前よ」
 やけに嬉しそうに、ダイアナは笑った。
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