28話 Fly me to the flower moon.

 せっかくのスーパームーン、それも皆既月食だというのに、この国の空は相変わらずの曇り具合だった。天使の吐息が、俺の部屋の窓を曇らせる。
「主はなぜ、この国をこんな天候に作り給うたのか、時々尋ねたくなるよ」
「まあ、お前のご主人サマは割と、よく分からないことをしでかすよな」
 天使はちょっと困ったような顔で俺を見る。俺は肩をすくめて見せた。
「悪い。お前の最愛のご主人サマを悪く言いたいわけじゃないんだ」
「……最愛、ではないけれど」
 僅かばかり頬を染めて目を逸らす様子に、胸の奥が切なくなる。並んで立つその身体をそっと抱き寄せると、陽射しの香りがした。
「なら、今からふたりで月に行こうか」
「え……」
 丸い瞳が、俺を見上げる。
「今なら、太陽が地球に隠されるのを見られるぜ。この前はお前に運んでもらったから、今日は俺が抱えて行ってやるよ。どうだ?」
 宝石のような青い瞳の中に、光輝が弾む。柔らかな微笑みが、俺の魂を撫でる。
「素敵なお誘いだな。うん、行こう」
 その言葉で、すべての雲が払われたような気がした。
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