24話 狡い

 不意打ちというのは卑怯だ、という認識があった。
 人間を善の道に導くという存在原理上、私たち天使の中には善悪の基準が明確に存在している。その中で、「卑怯」というのは悪に近い。自らの臆病さを露呈し、相手を陥れようとする負の感情の発露が、卑怯な行為なのだと、そう思っていた。
 しかし、これは。
 先ほどから押さえている頬が、じんじんする。不意打ちのキス。
 ちょっと考え事でぼんやりしていた、隙を突かれた形だ。冷たい悪魔の唇が頬に押し当てられた、その感触がまだ、私の皮膚に残っている。
 黒髪の悪魔は悪戯っぽく微笑んだ。その笑顔は、……狡い。
 だから、真正面から、その唇に唇を重ねた。ちゅ、と音がするくらいに。
 悪魔は一瞬、何が起きたのか分からないような顔をした。しかしすぐによろめき、自身の唇を手の甲で押さえた。滅多に見られない、彼の狼狽……そして、照れ。
「エンジェル、それは狡いぜ……」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろう」
 ふふ、と笑うと、悪魔は僅かに顔を赤らめた。
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