186話 angel's curiosity
いつものように夜、俺の部屋で二人きり、ソファに並んで映画を見ている時だった。
「これ、やってみたい」
と天使が言った。
スクリーンに映っているのは、仲睦まじい恋人同士が一本のマフラーを二人で共有し、首に巻いている……客観的にみると気恥ずかしくなるようなシーンだ。
「これ?」
一時停止したスクリーンを指差すと、天使は大真面目に頷いた。
「うん。これ」
「あー……。今?」
「うん、今やってみたいな」
人間のことを何でも知り、理解したい天使は、こういうところは譲らない。当初はあった俺への遠慮も、付き合いが数年に及ぶにつれ、なくなっていった。それ自体は嬉しいことだが、時おりこういう突拍子もない提案をするので驚かされる。
「わかった、いいぜ」
気恥ずかしいとは言え、相手が天使なら文句はない。それに今この部屋の中でなら、誰かに見られる心配も、風に煽られて台無しになることも、お互い行きたい方向がバラバラで互いに引っ張られることもない。
「やった! それじゃあまず、あれくらい長いマフラーが必要だけど……」
「お安いご用だ」
指を鳴らして、俺と、並んで座る天使との間に、最適な長さのマフラーが出現させる。以前ダイアナが俺にプレゼントしてくれた物をモデルに、倍の長さに仕立ててある。色は無論、黒だ。
「ありがとう! では早速」
天使はいそいそと、俺の首にそれを丁寧に回し始めた。恋人にマフラーを巻いてもらうのは悪い気はしない。
天使は俺の首に回し終えた後のマフラーの端を握ったまま、首を捻った。
「ええっと……。この後、どうしたらいいんだ?」
「天使サマ、このままだと」
「ちょっと待って! 自分でやってみたい」
俺は黙った。
天使はその端を自分の首にかけて回そうとしたが、はじめ俺の首に巻いた長さの関係上、余分がかなり短い。「ん〜」と唸りながら何とかしようとしていた天使だったが、やがて諦めて俺の首からも外してしまった。
「そうか! 最初にお前に長く巻き過ぎてしまったから……」
ぶつぶつ言いながら、天使は再び最初からやり直し、今度は俺の首に巻いた分が短くなり過ぎて解体した。
「ううん、ちょうどいい長さで二人に巻くには……」
「天使サマ、それなら」
「ちょっと黙ってて!」
悲しい気分で黙った俺は、天使が試行錯誤するのを見守った。温厚で優しい俺の天使は、変なところで頑固なのだ。恐らく、人間を理解するためには自分自身が経験して納得しないと意味がないと信じているのだろう。
結局、数十分かかった。しかしその甲斐あって、マフラーは、俺の分も天使の分も、ちょうど良い長さで綺麗に巻きつけられている。
「できた!」
嬉しそうな天使は、マフラーの分だけ俺に体を寄せて幸せそうだ。
「上手に巻いてくれてありがとう」
天使はうふふと笑い、俺の肩に頭を預けた。
「これはいいね。お前をもっと近く感じられる気がする」
俺は「そうだな」とか何とか言った気がするが、定かではない。幸福すぎて意識が遠のき、目が覚めた時にはすっかり朝になっていた。
「これ、やってみたい」
と天使が言った。
スクリーンに映っているのは、仲睦まじい恋人同士が一本のマフラーを二人で共有し、首に巻いている……客観的にみると気恥ずかしくなるようなシーンだ。
「これ?」
一時停止したスクリーンを指差すと、天使は大真面目に頷いた。
「うん。これ」
「あー……。今?」
「うん、今やってみたいな」
人間のことを何でも知り、理解したい天使は、こういうところは譲らない。当初はあった俺への遠慮も、付き合いが数年に及ぶにつれ、なくなっていった。それ自体は嬉しいことだが、時おりこういう突拍子もない提案をするので驚かされる。
「わかった、いいぜ」
気恥ずかしいとは言え、相手が天使なら文句はない。それに今この部屋の中でなら、誰かに見られる心配も、風に煽られて台無しになることも、お互い行きたい方向がバラバラで互いに引っ張られることもない。
「やった! それじゃあまず、あれくらい長いマフラーが必要だけど……」
「お安いご用だ」
指を鳴らして、俺と、並んで座る天使との間に、最適な長さのマフラーが出現させる。以前ダイアナが俺にプレゼントしてくれた物をモデルに、倍の長さに仕立ててある。色は無論、黒だ。
「ありがとう! では早速」
天使はいそいそと、俺の首にそれを丁寧に回し始めた。恋人にマフラーを巻いてもらうのは悪い気はしない。
天使は俺の首に回し終えた後のマフラーの端を握ったまま、首を捻った。
「ええっと……。この後、どうしたらいいんだ?」
「天使サマ、このままだと」
「ちょっと待って! 自分でやってみたい」
俺は黙った。
天使はその端を自分の首にかけて回そうとしたが、はじめ俺の首に巻いた長さの関係上、余分がかなり短い。「ん〜」と唸りながら何とかしようとしていた天使だったが、やがて諦めて俺の首からも外してしまった。
「そうか! 最初にお前に長く巻き過ぎてしまったから……」
ぶつぶつ言いながら、天使は再び最初からやり直し、今度は俺の首に巻いた分が短くなり過ぎて解体した。
「ううん、ちょうどいい長さで二人に巻くには……」
「天使サマ、それなら」
「ちょっと黙ってて!」
悲しい気分で黙った俺は、天使が試行錯誤するのを見守った。温厚で優しい俺の天使は、変なところで頑固なのだ。恐らく、人間を理解するためには自分自身が経験して納得しないと意味がないと信じているのだろう。
結局、数十分かかった。しかしその甲斐あって、マフラーは、俺の分も天使の分も、ちょうど良い長さで綺麗に巻きつけられている。
「できた!」
嬉しそうな天使は、マフラーの分だけ俺に体を寄せて幸せそうだ。
「上手に巻いてくれてありがとう」
天使はうふふと笑い、俺の肩に頭を預けた。
「これはいいね。お前をもっと近く感じられる気がする」
俺は「そうだな」とか何とか言った気がするが、定かではない。幸福すぎて意識が遠のき、目が覚めた時にはすっかり朝になっていた。