185話 来年の貴方のために
毎年、年末のこの時期になると、バクがソワソワしだす。私がのんびりクリスマスカードを書いたり、プレゼントについて考えたりしている間、一人で忙しそうにしている。普段なら昼間は眠ったり散歩したりして、夜は街中の人たちの夢を食べ歩いて、私みたいにのんびり過ごしているのに。
「バク、何を忙しくしているの?」
たまたま廊下ですれ違ったバクは、手に掃除用のハタキを持っていた。小さな子供の姿をとっているバクは、少し面倒そうな様子で私を見上げた。
「大掃除だよ。と言っても、自分の部屋だけだけどね」
「ええ? 大掃除? こんな時期に?」
大掃除なんて、この暗くて寒いばかりの時期にやるものではない。少なくともこの国では、春に大掃除をするのが普通だ。私の言葉に、バクは曖昧に頷く。
「日本ではこの時期にやるんだよ。一年の汚れをその年のうちに落として、新しい年をサッパリした気持ちで迎えるのさ」
言われてみれば、納得できる理由だ。バクは元々日本に住んでいたから、日本の慣習が染み付いているのだろう。
「ぼくは日本にいた時あちこち転々としていたから、自分の部屋なんて持ったことはないけどさ。でも、居候していた神社仏閣なんかはこの時期に煤払いを行っていたし、一時期住処にしていたビル街でも、この時期に大掃除する会社や飲食店が多かったんだ。だから、どうも……掃除の一つもしないなんて、気が落ち着かなくてね」
「そうなの。偉いわねえ」
私が感心すると、バクはちょっと唇を尖らせた。私が見た目通りの子供扱いをしたようで嫌だったのかもしれない。
「ごめんなさい、気を悪くしたかしら」
本当は何百年も生きているらしいバクは、大きな目をもっと大きくして私を見た。
「いや、そうじゃないんだ。ただ、何かで褒められるってことに慣れてなくて……。ぼくの方こそ、誤解させてすまない」
よかった、怒ってないみたい。
私がほっとしていると、バクは再び歩き出しそうなそぶりを見せた。
「それじゃあ、ぼくは掃除に戻るよ」
「あ、ちょっと待って」
私が呼び止めると、バクは「まだ何か?」と立ち止まった。
「私もお手伝いできることがあれば、するわよ。これでも箒を動かしたりするくらいの魔法は使えるし、いつもお兄様の地下書庫やリビングの掃除を任されているのだし、力になれるわ」
バクは「いや、……」と言いかけて、それから少し視線をさまよわせ、「……それじゃあ頼むよ」と頷いた。
「と言っても、ぼくの部屋はそんなに広くないし、物が多いわけでもないから、もしかしたらあまり手を借りることもないかもしれないけれど」
「やったあ! バクの部屋って入ったことないから気になってたのよね!」
「え、もしかして。ぼくの部屋を見たいだけだったのか」
バクはショックを受けたように固まった。
「冗談よ。ただ、いつもバクにはお世話になっているから、お手伝いくらいはしないと……罰が当たるわ」
バクは尚も疑わしげな眼差しで「使い魔なんだから、誰もダイアナに罰なんて下さないと思うけど……」と言った。
「でも、そういうことならありがたく、力を貸してもらうよ」
「もちろんよ!」
私は腕まくりをした。
「来年もバクがこの家で気持ちよく過ごせるように、張り切っちゃうんだから!」
それじゃあ最初は何をしたらいい、と尋ねる私に、バクは「ありがとう」と笑った。
「バク、何を忙しくしているの?」
たまたま廊下ですれ違ったバクは、手に掃除用のハタキを持っていた。小さな子供の姿をとっているバクは、少し面倒そうな様子で私を見上げた。
「大掃除だよ。と言っても、自分の部屋だけだけどね」
「ええ? 大掃除? こんな時期に?」
大掃除なんて、この暗くて寒いばかりの時期にやるものではない。少なくともこの国では、春に大掃除をするのが普通だ。私の言葉に、バクは曖昧に頷く。
「日本ではこの時期にやるんだよ。一年の汚れをその年のうちに落として、新しい年をサッパリした気持ちで迎えるのさ」
言われてみれば、納得できる理由だ。バクは元々日本に住んでいたから、日本の慣習が染み付いているのだろう。
「ぼくは日本にいた時あちこち転々としていたから、自分の部屋なんて持ったことはないけどさ。でも、居候していた神社仏閣なんかはこの時期に煤払いを行っていたし、一時期住処にしていたビル街でも、この時期に大掃除する会社や飲食店が多かったんだ。だから、どうも……掃除の一つもしないなんて、気が落ち着かなくてね」
「そうなの。偉いわねえ」
私が感心すると、バクはちょっと唇を尖らせた。私が見た目通りの子供扱いをしたようで嫌だったのかもしれない。
「ごめんなさい、気を悪くしたかしら」
本当は何百年も生きているらしいバクは、大きな目をもっと大きくして私を見た。
「いや、そうじゃないんだ。ただ、何かで褒められるってことに慣れてなくて……。ぼくの方こそ、誤解させてすまない」
よかった、怒ってないみたい。
私がほっとしていると、バクは再び歩き出しそうなそぶりを見せた。
「それじゃあ、ぼくは掃除に戻るよ」
「あ、ちょっと待って」
私が呼び止めると、バクは「まだ何か?」と立ち止まった。
「私もお手伝いできることがあれば、するわよ。これでも箒を動かしたりするくらいの魔法は使えるし、いつもお兄様の地下書庫やリビングの掃除を任されているのだし、力になれるわ」
バクは「いや、……」と言いかけて、それから少し視線をさまよわせ、「……それじゃあ頼むよ」と頷いた。
「と言っても、ぼくの部屋はそんなに広くないし、物が多いわけでもないから、もしかしたらあまり手を借りることもないかもしれないけれど」
「やったあ! バクの部屋って入ったことないから気になってたのよね!」
「え、もしかして。ぼくの部屋を見たいだけだったのか」
バクはショックを受けたように固まった。
「冗談よ。ただ、いつもバクにはお世話になっているから、お手伝いくらいはしないと……罰が当たるわ」
バクは尚も疑わしげな眼差しで「使い魔なんだから、誰もダイアナに罰なんて下さないと思うけど……」と言った。
「でも、そういうことならありがたく、力を貸してもらうよ」
「もちろんよ!」
私は腕まくりをした。
「来年もバクがこの家で気持ちよく過ごせるように、張り切っちゃうんだから!」
それじゃあ最初は何をしたらいい、と尋ねる私に、バクは「ありがとう」と笑った。