181話 幸運な使い魔と完璧な悪魔
結論として、ダイアナちゃんの運はすこぶる良かった。彼女の案内に従ってたどり着いたのは自然公園の中心部付近に位置する、ちょっとした丘の上だった。そもそもさっきまで吹雪いていたので、公園には誰もいない。自然公園の入り口付近は降りたての雪に覆われていて、歩きにくいことこの上なかった。好き好んでこの季節、ここを通る人は少ないのではないか……。
そう思いながら丘にたどり着いた私は、あっけに取られてしまった。この近辺だけ、雪が降っていない。
「今日も運が良かったわ!」
ダイアナちゃんは丘の頂上で両腕を広げて笑った。マツリカちゃんも隣で、不思議そうに周辺を見回している。見上げた空は、……この公園の周りだけ、綺麗に晴れている。
「ラブ、これって……」
私の視線に、悪魔は苦笑いを浮かべた。
「あいつは運がいいんだと思ってるみたいなんだがな。実はジャック・フロストの仕業なんだ」
「ジャック・フロスト!」
雪や氷を操る、冬の妖精だ。冬期間限定で天候を操っているというが……。
「いいなあ。お前はジャック・フロストとも面識があるのか。彼らは魔物の一種だから、天使の前には現れてくれないんだよ」
人間たちが冬や雪の擬人化として親しみ、数々の伝説にも取り入れてきた妖精を、一度でいいからこの目で見てみたいものだ。
悪魔は私の羨望の眼差しを困ったように受け流し、続けた。
「この間、ダイアナがジャック・フロストの手助けをしたことがあってな。それで大層気に入られたのさ。ダイアナが気が向いた時にこの丘に登って星を見て帰るということを知ったあの妖精は、ここだけはいつでも晴れるように手心を加えているらしいんだ」
「それはまた……。ダイアナちゃんは確か、雷や風の悪魔とも仲がいいんだろう。すごいね、大人気じゃないか」
「ああ、本当にな」
悪魔は目を細め、元気いっぱいの少女の様子を見守った。ダイアナちゃんとマツリカちゃんは、何か明るい星を見つけたようだ。
「お兄様、天使様! あれ、あそこの青白く光っている星の集まり……あれ、綺麗ね!」
「ああ? どれ……」
ダイアナちゃんの呼びかけに、悪魔は空へ目を向ける。
「ふん、あれか。プレアデス星団だ。マツリカ嬢は、昴と言った方が馴染みがあるんじゃないか」
「昴……。確かに、日本にいた頃、聞いたことがある名前です。あれなんですね」
ダイアナちゃんとマツリカちゃんは揃って星の群れを見上げる。かつて有名な人間が主のみ技であると表現したこともある星の集まりは、明るく輝いている。
「そういえばプレアデス星団の星は、肉眼では六つか七つに見えるんだよね。ダイアナちゃんとマツリカちゃんは、幾つに見える?」
私の問いかけに二人とも「六つ!」と答えた。
「ラブは? お前ならひょっとして、全部見えたり……」
「あのなあ」
悪魔は首を振った。
「この体は人間そのものなんだ。人間にできることしか、この体にはできないんだよ」
俺を何だと思ってるんだ、と呟いた彼に寄り添って「何でもできる、完璧な悪魔だと思ってるよ」と囁くと、その体が固まった。
そう思いながら丘にたどり着いた私は、あっけに取られてしまった。この近辺だけ、雪が降っていない。
「今日も運が良かったわ!」
ダイアナちゃんは丘の頂上で両腕を広げて笑った。マツリカちゃんも隣で、不思議そうに周辺を見回している。見上げた空は、……この公園の周りだけ、綺麗に晴れている。
「ラブ、これって……」
私の視線に、悪魔は苦笑いを浮かべた。
「あいつは運がいいんだと思ってるみたいなんだがな。実はジャック・フロストの仕業なんだ」
「ジャック・フロスト!」
雪や氷を操る、冬の妖精だ。冬期間限定で天候を操っているというが……。
「いいなあ。お前はジャック・フロストとも面識があるのか。彼らは魔物の一種だから、天使の前には現れてくれないんだよ」
人間たちが冬や雪の擬人化として親しみ、数々の伝説にも取り入れてきた妖精を、一度でいいからこの目で見てみたいものだ。
悪魔は私の羨望の眼差しを困ったように受け流し、続けた。
「この間、ダイアナがジャック・フロストの手助けをしたことがあってな。それで大層気に入られたのさ。ダイアナが気が向いた時にこの丘に登って星を見て帰るということを知ったあの妖精は、ここだけはいつでも晴れるように手心を加えているらしいんだ」
「それはまた……。ダイアナちゃんは確か、雷や風の悪魔とも仲がいいんだろう。すごいね、大人気じゃないか」
「ああ、本当にな」
悪魔は目を細め、元気いっぱいの少女の様子を見守った。ダイアナちゃんとマツリカちゃんは、何か明るい星を見つけたようだ。
「お兄様、天使様! あれ、あそこの青白く光っている星の集まり……あれ、綺麗ね!」
「ああ? どれ……」
ダイアナちゃんの呼びかけに、悪魔は空へ目を向ける。
「ふん、あれか。プレアデス星団だ。マツリカ嬢は、昴と言った方が馴染みがあるんじゃないか」
「昴……。確かに、日本にいた頃、聞いたことがある名前です。あれなんですね」
ダイアナちゃんとマツリカちゃんは揃って星の群れを見上げる。かつて有名な人間が主のみ技であると表現したこともある星の集まりは、明るく輝いている。
「そういえばプレアデス星団の星は、肉眼では六つか七つに見えるんだよね。ダイアナちゃんとマツリカちゃんは、幾つに見える?」
私の問いかけに二人とも「六つ!」と答えた。
「ラブは? お前ならひょっとして、全部見えたり……」
「あのなあ」
悪魔は首を振った。
「この体は人間そのものなんだ。人間にできることしか、この体にはできないんだよ」
俺を何だと思ってるんだ、と呟いた彼に寄り添って「何でもできる、完璧な悪魔だと思ってるよ」と囁くと、その体が固まった。