181話 幸運な使い魔と完璧な悪魔

 吹雪が止んだのは、太陽が沈んだ頃だった。たまたま同じ図書館で過ごしていた私とマツリカちゃんは、図書館の閉館に合わせるように外へ出た。
「神父様は何か借りられたんですか」
 大通りまでの道を二人で歩いていると、マツリカちゃんが私のバッグを見ながら尋ねた。
「うん。気になっていた新刊のミステリと、もう一つは心理学の本だよ。マツリカちゃんは?」
「私は魔法使いが出てくるファンタジー小説と、考古学のノンフィクション、クリスマス短編集、それから……」
 更に何冊か数え上げるマツリカちゃんは、それほど大きくない鞄を、本でパンパンに膨らませていた。
「学校の図書室に置いてない本がたくさんあって、つい」
 私の視線に、なぜか言い訳するような言い方だ。
「たくさん借りれてよかったじゃないか。本は人間の宝だよ。楽しめるといいね」
「はい!」
 大きく頷いたマツリカちゃんは、ふと前方に目を留めた。
「……あら。あれは」
 彼女の視線の先には、見覚えのある少女がいた。私と同じ金髪を耳の上でツインテールに結び、揺らしながら歩いている。その隣には同じく見覚えのある、黒髪の男が歩いている。長身が、道ゆく人たちの中でも飛び抜けて目立つ。
「ダイアナだわ」「ラブだ」
 マツリカちゃんと私が呟いた時、こちらに背を向けていた二人がくるっと振り返った。ダイアナちゃんの明るい声が、路地に響き渡る。
「あっ! マツリカ! それに、天……神父様!」
 ダイアナちゃんは雪道だというのに元気よく走って来た。私の悪魔の方は、ゆっくり歩いて来る。やがて少女二人は歩道の上で再会した。
「どうしたの、神父様と一緒なんて。珍しいわね」
「そこの図書館で一緒になったのよ。ココアをご馳走になったわ」
「あら、いいわねえ!」
 可愛らしい会話に和んでいると、悪魔も合流した。相変わらず薄手の黒い革ジャケット、黒いシャツに黒いパンツ、雪道だと言うのにただの革靴だ。それだけだと寒そうだが、首には黒いマフラーも巻いている。ダイアナちゃんが以前、彼にプレゼントした物らしい。彼は私の肩にかかっているバッグと、マツリカちゃんの鞄を面白そうに見やった。
「なるほど。確かに、お前とマツリカ嬢には大の本好きという共通要素があったな。今まで接点がなかったのが不思議なくらいだ」
「そうだろう。だから今日は、色々お喋りしたんだ。ね?」
 マツリカちゃんに視線を向けると、彼女はにっこり笑って頷いてくれた。そこへ、ダイアナちゃんが飛び跳ねそうな勢いで声を上げた。
「そうだ、私とお兄様はそこの公園を抜けて帰るのだけど、二人ともよかったら一緒に行かない? うまくいけば綺麗な星空が見えるわよ」
「星空?」
 私とマツリカちゃんは、つい空を見上げてしまった。さっきまで吹雪いていた空は白く曇っていて、月明かりさえ漏らさない様子だ。
「まあ、星空が見えるかどうかは、このお転婆少女の運にかかってるんだが……。しかしダイアナは、運はすこぶるいいからな。どうだ、一緒に来るか?」
 悪魔にそう誘われて、私とマツリカちゃんは半信半疑ながらも同行することにした。
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