177話 my own shine
マツリカとカミラと一緒に下校中、青く晴れた空からキラキラと、雪が舞うように落ちてきた。それは「降る」と形容するにはどうも違った感じがして、けれどダイアモンドダストほど細かい雪ではなく、ちょうどいい表現方法が、自分の語彙の中に見当たらなかった。
舞うように落ちてくる雪……その舞い方を、何かに例えられないかしら。
そんなことを思ったのは、最近、文章表現の授業で比喩について習っているからかもしれない。小説にしろ詩歌にしろ、物事をただ直接的に書くだけではつまらないし、上手く伝わらないことさえある。けれど比喩を使えば面白みも出て、直接的な説明では理解しにくい事柄も、より身近なものに置き換えて理解しやすくすることができる。
舞う……ダンサー? いいえ、これはそんなにリズミカルな舞い方ではないわね。もっと風に吹かれるに任せた、完全に受け身といった雰囲気の……。
「花、かしら」
「風花だわ」
私の呟きと同時に、マツリカが耳慣れない言葉を発した。
「え? カザハナ……?」
確かにそう聞こえたのだけれど、自信がない。何となく、日本語っぽい音の響きだ。
私が聞き返すと、マツリカは頷いた。
「ええ、風花。日本語で、風に花と書くのよ。……多分、今ダイアナが見て、考えていたことと同じものを指すわ」
ちょっとイタズラっぽい笑顔。
私が今見て、考えていたこと……花のように舞う雪……。
「ああ、そういうこと! アレのことね!」
私とマツリカは笑い合う。後ろで日傘を差して歩いているカミラだけ、不思議そうに私たちを見ている。
「二人とも、何のこと?」
「アレよ、あそこに、風に舞ってる雪が見えるでしょう」
私が指差すと、カミラは一瞬目を凝らしたようだけれど、すぐに諦めてしまった。
「ごめんなさい。私、あまり陽の光を反射するものを見られないのよ。……でも二人が言いたいことはわかったわ」
吸血鬼で日光アレルギーのカミラは日傘の下で目を閉じ、瞼をさすりながら言う。
「花を散らせる強い風のことを言うんでしょう」
「違うわよ、それじゃあ春の話になってしまうわ」
「風に舞う花のような雪のことよ」
思わずマツリカと二人で突っ込んでしまった。カミラは「あら、そうなのね」と頷く。
「確かに、言われてみれば雪の結晶はそれ単体だとひらひら降りてくるものね。風に舞っていたら、花びらみたいかもしれない」
「そうでしょう」
青空には、まだ花の雪がひらひら舞っている。ふわりふわりと落ちてくるそれは、多分、地面についた瞬間に溶けて消えてしまうくらいに儚いのだろう。
「それにしても日本語ってすごいのね。私が自力で考えついた比喩を、昔から単語として持っていたんだもの」
「あら、日本語だけがすごいわけじゃないわよ。どの国にも、その国ならではの巧みな比喩があるものだわ」
それに、とマツリカは続けた。
「今回に関しては、そこに自力でたどり着いたダイアナがすごいわよ」
「あら!」
褒められて、頬が緩む。
もっと色々な言葉を自分なりに表せるようになれれば、きっと、世界は私だけに見える輝きを放つようになるだろう。
私たちは足取り軽く、風花の中を歩くのだった。
舞うように落ちてくる雪……その舞い方を、何かに例えられないかしら。
そんなことを思ったのは、最近、文章表現の授業で比喩について習っているからかもしれない。小説にしろ詩歌にしろ、物事をただ直接的に書くだけではつまらないし、上手く伝わらないことさえある。けれど比喩を使えば面白みも出て、直接的な説明では理解しにくい事柄も、より身近なものに置き換えて理解しやすくすることができる。
舞う……ダンサー? いいえ、これはそんなにリズミカルな舞い方ではないわね。もっと風に吹かれるに任せた、完全に受け身といった雰囲気の……。
「花、かしら」
「風花だわ」
私の呟きと同時に、マツリカが耳慣れない言葉を発した。
「え? カザハナ……?」
確かにそう聞こえたのだけれど、自信がない。何となく、日本語っぽい音の響きだ。
私が聞き返すと、マツリカは頷いた。
「ええ、風花。日本語で、風に花と書くのよ。……多分、今ダイアナが見て、考えていたことと同じものを指すわ」
ちょっとイタズラっぽい笑顔。
私が今見て、考えていたこと……花のように舞う雪……。
「ああ、そういうこと! アレのことね!」
私とマツリカは笑い合う。後ろで日傘を差して歩いているカミラだけ、不思議そうに私たちを見ている。
「二人とも、何のこと?」
「アレよ、あそこに、風に舞ってる雪が見えるでしょう」
私が指差すと、カミラは一瞬目を凝らしたようだけれど、すぐに諦めてしまった。
「ごめんなさい。私、あまり陽の光を反射するものを見られないのよ。……でも二人が言いたいことはわかったわ」
吸血鬼で日光アレルギーのカミラは日傘の下で目を閉じ、瞼をさすりながら言う。
「花を散らせる強い風のことを言うんでしょう」
「違うわよ、それじゃあ春の話になってしまうわ」
「風に舞う花のような雪のことよ」
思わずマツリカと二人で突っ込んでしまった。カミラは「あら、そうなのね」と頷く。
「確かに、言われてみれば雪の結晶はそれ単体だとひらひら降りてくるものね。風に舞っていたら、花びらみたいかもしれない」
「そうでしょう」
青空には、まだ花の雪がひらひら舞っている。ふわりふわりと落ちてくるそれは、多分、地面についた瞬間に溶けて消えてしまうくらいに儚いのだろう。
「それにしても日本語ってすごいのね。私が自力で考えついた比喩を、昔から単語として持っていたんだもの」
「あら、日本語だけがすごいわけじゃないわよ。どの国にも、その国ならではの巧みな比喩があるものだわ」
それに、とマツリカは続けた。
「今回に関しては、そこに自力でたどり着いたダイアナがすごいわよ」
「あら!」
褒められて、頬が緩む。
もっと色々な言葉を自分なりに表せるようになれれば、きっと、世界は私だけに見える輝きを放つようになるだろう。
私たちは足取り軽く、風花の中を歩くのだった。