173話 冬の妖精
今日は学校はお休みで、私は朝早くから冬の街を散歩していた。ちらほら雪が降って静かな中を、白い息を吐きながら。学校がある日は全然起きられないのだけど、休日はなぜだか早く目が覚めてしまって、季節の移り変わりを感じるために歩き回りたくなってしまう。
お兄様が買ってくれた新しいコートやマフラー、手袋はとても可愛くて暖かくて、それだけで嬉しくてどんどん歩けてしまうから素敵。
ピンクの毛糸の手袋を眺めながら、信号待ちをしている時だった。男の子が道端にうずくまってしくしく泣いているのを見かけた。
エレメンタリースクールの上級生くらいの男の子は、真っ白で汚れひとつない、綺麗なコートとブーツを身に付けている。そのコートの裾が地面についてしまっているのに構わず、静かにしゃくり声を上げている。染めているのか、深い青色の短髪に、陽が当たってきらめいている。
私は辺りを見回した。近くに開店しているお店はないし、通りがかる人も、保護者らしい人の姿も見当たらない。本当に静かな早朝なのだ。
「ねえ君。大丈夫?」
私は男の子に話しかけた。男の子はパッと顔を上げ、私を見た。氷のように透き通った水色の目が、ゆらりと私を捉える。本当にびっくりしたみたいで数秒間そうして固まっていたけれど、やがてゆっくり喋り出した。
「大事な手袋を……失くしてしまったの。あれがないと僕……みんなに怪我をさせちゃう」
言葉の後半の意味はさっぱりわからなかったけれど、とにかく手袋を失くして困っていることはわかった。こんなに小さな子が泣いて困っているのだ、年長者として手助けをしてあげなくてはいけない。
「わかったわ。私が探すのを手伝ってあげる」
「え? お姉ちゃんが……?」
男の子は目を丸くして私を見つめた。
「ええ、お姉ちゃんが。それで、どこで失くしたの? ここに来るまでの道順を一緒に辿ってみましょう」
それでも見つからなければ警察に行くつもりで、私は提案した。男の子はもう泣いていなかった。立ち上がって指差したのは、すぐ傍のお家の二階……。
「このお家?」
「ううん。一緒に来てくれる?」
男の子の言葉と同時に、地面から急に冷気が吹き上げた。それに煽られるようにして、男の子の足が地面から離れ、体が浮かび上がっていく……。
「あらまあ! あなた人間じゃないの?」
男の子は答えず、そのまま先ほど指差した家の屋根の上まで行ってしまった。私は慌ててそれについて行くべく、自分に姿が見えなくなる魔法をかけ、背中から翼を出現させた。お兄様や天使様に比べたら小さな翼だけれど、家の屋根あたりまで飛び上がるくらいは造作もない。
私はどうにか男の子の後を追い、屋根の上に上がった。待ってくれていた男の子は、その家の隣の家の屋根、さらにそこに連なる屋根……と指で指し示しながら「この区域の家の屋根を歩いていたの」と説明してくれた。
「わかったわ。それじゃあ手分けして、探してみましょう」
「うん!」
さっきよりは元気になった男の子は勢いよく頷いて、また浮かび上がって屋根から屋根へと渡っていく。私は家と家との隙間、中庭、ベランダに注意しながら、それを追いかけた。
男の子のコートやブーツ同様に真っ白で上等な手袋が落ちていたのは、最初の家の三軒隣の家のベランダだった。私が知らせると、男の子はすごい勢いで飛んできて手袋を掴み、輝くような笑みを浮かべた。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「どういたしまして。見つかってよかった……あら?」
気がつくと男の子は姿を消し、私は一人で人の家のベランダに立っていた。
お兄様が買ってくれた新しいコートやマフラー、手袋はとても可愛くて暖かくて、それだけで嬉しくてどんどん歩けてしまうから素敵。
ピンクの毛糸の手袋を眺めながら、信号待ちをしている時だった。男の子が道端にうずくまってしくしく泣いているのを見かけた。
エレメンタリースクールの上級生くらいの男の子は、真っ白で汚れひとつない、綺麗なコートとブーツを身に付けている。そのコートの裾が地面についてしまっているのに構わず、静かにしゃくり声を上げている。染めているのか、深い青色の短髪に、陽が当たってきらめいている。
私は辺りを見回した。近くに開店しているお店はないし、通りがかる人も、保護者らしい人の姿も見当たらない。本当に静かな早朝なのだ。
「ねえ君。大丈夫?」
私は男の子に話しかけた。男の子はパッと顔を上げ、私を見た。氷のように透き通った水色の目が、ゆらりと私を捉える。本当にびっくりしたみたいで数秒間そうして固まっていたけれど、やがてゆっくり喋り出した。
「大事な手袋を……失くしてしまったの。あれがないと僕……みんなに怪我をさせちゃう」
言葉の後半の意味はさっぱりわからなかったけれど、とにかく手袋を失くして困っていることはわかった。こんなに小さな子が泣いて困っているのだ、年長者として手助けをしてあげなくてはいけない。
「わかったわ。私が探すのを手伝ってあげる」
「え? お姉ちゃんが……?」
男の子は目を丸くして私を見つめた。
「ええ、お姉ちゃんが。それで、どこで失くしたの? ここに来るまでの道順を一緒に辿ってみましょう」
それでも見つからなければ警察に行くつもりで、私は提案した。男の子はもう泣いていなかった。立ち上がって指差したのは、すぐ傍のお家の二階……。
「このお家?」
「ううん。一緒に来てくれる?」
男の子の言葉と同時に、地面から急に冷気が吹き上げた。それに煽られるようにして、男の子の足が地面から離れ、体が浮かび上がっていく……。
「あらまあ! あなた人間じゃないの?」
男の子は答えず、そのまま先ほど指差した家の屋根の上まで行ってしまった。私は慌ててそれについて行くべく、自分に姿が見えなくなる魔法をかけ、背中から翼を出現させた。お兄様や天使様に比べたら小さな翼だけれど、家の屋根あたりまで飛び上がるくらいは造作もない。
私はどうにか男の子の後を追い、屋根の上に上がった。待ってくれていた男の子は、その家の隣の家の屋根、さらにそこに連なる屋根……と指で指し示しながら「この区域の家の屋根を歩いていたの」と説明してくれた。
「わかったわ。それじゃあ手分けして、探してみましょう」
「うん!」
さっきよりは元気になった男の子は勢いよく頷いて、また浮かび上がって屋根から屋根へと渡っていく。私は家と家との隙間、中庭、ベランダに注意しながら、それを追いかけた。
男の子のコートやブーツ同様に真っ白で上等な手袋が落ちていたのは、最初の家の三軒隣の家のベランダだった。私が知らせると、男の子はすごい勢いで飛んできて手袋を掴み、輝くような笑みを浮かべた。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「どういたしまして。見つかってよかった……あら?」
気がつくと男の子は姿を消し、私は一人で人の家のベランダに立っていた。