169話 doll's emergency

 クリスマスムードで賑わう街は、正直言って苦手だ。二十五日当日は天使に守ってもらわないと外出などできないくらい人々の信仰心が頂点に達するが、当日でなくともその前一ヶ月ほどは、かなりキツい。俺くらいの悪魔でも体に堪えるのだから、使い魔などは容易に身動きが取れない。だから、ちょっとした雑用も、俺が自分でこなすしかない。奇跡も魔法も効かない特殊体質のダイアナと、少々出自が特殊な魔物である獏だけは、こんな季節でも楽しげに外出しているが。
 そういうわけで、俺は年明けからの仕事に必要な道具を揃えるために馴染みの店へ足を運んだ。この季節は讃美歌なんかが突然聞こえてきたりもして非常に危ないので、ノイズキャンセリング付きのイヤホンを付けて歩く。人間の科学技術には助けられる部分が多い。
 だから、最初は俺への呼びかけに気がつけなかった。何か、珍しい魔力の塊が近くをうろついているな、と感じていたくらいだ。だが、突然その気配にジャケットの裾を引っ張られて、俺は驚いて振り返った。
 見覚えのある少女が、口をパクパクして俺を見上げている。……こいつは確か。
「驚いた。君はダイアナの友達の……確か、カミラ嬢」
 吸血鬼である彼女がいるということは、ここには讃美歌は響いていないはずだ、と判断して、俺はイヤホンを耳から外した。途端に街の喧騒と共に、カミラのか細い声が耳に入ってきた。
「助けて、ダイアナのお兄様!」
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