161話 悪魔の尻尾
お兄様の地下書庫には、大量の本がある。そもそもお家はマンションの高層階のワンフロアだから、地下と繋がっているなんてありっこないのだけど、そこは実際に地下にある、らしい。お兄様はこの家以外にもいろいろな空間を所有しているそうで、地下書庫もその一つなのだとか。空間を捻じ曲げて通路を作っているのだと聞いたことがある。地下書庫には、いわゆる普通の本なんて一冊もない。そこには魔術書や魔法生物に関する記録、悪魔が書いた書物や人間に害を為す書物ばかりが揃っている。だから、とっても面白い。人間に害を為す書物は別として。
マツリカのお家で夏休みの宿題に取り組んで帰って来てからは、そこで見つけた悪魔図鑑を読むのが最近の趣味だ。著者は悪魔のようだけれど、人間から見た悪魔に関する記述と悪魔から見た悪魔に関する記述とが交互に記されていて、元人間の使い魔である私には勉強になることばかりだ。
夕飯時、私は図鑑を示しながら、向かいに座るお兄様に尋ねた。
「ねえ、お兄様。この図鑑には、悪魔の尻尾について書いてあるのだけど……」
「ダイアナ、食事中に本を読むな。しかもそれ、俺の蔵書じゃないか」
「お兄様にも尻尾があるの? 私には?」
お兄様は渋い顔で図鑑を一瞥した。
「ああ、あるぜ。お前には……わからん。今ないのなら、ないんじゃないか」
「そうなの!」
私は図鑑に描かれた悪魔の尻尾のイラストを今一度眺めた。悪魔の腰とお尻の間くらいから生えている尻尾は、黒くてヒョロリと長くて、毛束がフサになっている部分がある。
「こら」
お兄様が指を鳴らした。図鑑は私の手からお兄様の手の中に移動した。
「あーん」
「あーんじゃない。食事中に読むなと言ってる」
「ごめんなさい。……でも私、お兄様の尻尾なんて見たことないわ。本当にあんな感じなの?」
お兄様が、ますます渋い顔になる。
「図鑑の記述をちゃんと読んでないだろう」
「ええ、まあ」
だってイラストを見ている方が楽しいんだもの。
お兄様は、さっきまで私が見ていたページを開いた。
「それじゃあ読み上げてやる。いいか……『悪魔の尻尾は繊細であり、急所である。人間における局部と同じ扱いであり、みだりに他者に見せるべき物ではない』……つまりだ、尻尾なんて見せるのははしたないんだよ」
「あら……」
お兄様が渋い顔をしていた理由がわかった。他の人と一緒にいる時にテレビから気まずいシーンが流れてきたような空気だ。
黙って食事を続けながら、私は一つ、心に決めた。
今度からはちゃんと、図鑑の文章も読もう。
マツリカのお家で夏休みの宿題に取り組んで帰って来てからは、そこで見つけた悪魔図鑑を読むのが最近の趣味だ。著者は悪魔のようだけれど、人間から見た悪魔に関する記述と悪魔から見た悪魔に関する記述とが交互に記されていて、元人間の使い魔である私には勉強になることばかりだ。
夕飯時、私は図鑑を示しながら、向かいに座るお兄様に尋ねた。
「ねえ、お兄様。この図鑑には、悪魔の尻尾について書いてあるのだけど……」
「ダイアナ、食事中に本を読むな。しかもそれ、俺の蔵書じゃないか」
「お兄様にも尻尾があるの? 私には?」
お兄様は渋い顔で図鑑を一瞥した。
「ああ、あるぜ。お前には……わからん。今ないのなら、ないんじゃないか」
「そうなの!」
私は図鑑に描かれた悪魔の尻尾のイラストを今一度眺めた。悪魔の腰とお尻の間くらいから生えている尻尾は、黒くてヒョロリと長くて、毛束がフサになっている部分がある。
「こら」
お兄様が指を鳴らした。図鑑は私の手からお兄様の手の中に移動した。
「あーん」
「あーんじゃない。食事中に読むなと言ってる」
「ごめんなさい。……でも私、お兄様の尻尾なんて見たことないわ。本当にあんな感じなの?」
お兄様が、ますます渋い顔になる。
「図鑑の記述をちゃんと読んでないだろう」
「ええ、まあ」
だってイラストを見ている方が楽しいんだもの。
お兄様は、さっきまで私が見ていたページを開いた。
「それじゃあ読み上げてやる。いいか……『悪魔の尻尾は繊細であり、急所である。人間における局部と同じ扱いであり、みだりに他者に見せるべき物ではない』……つまりだ、尻尾なんて見せるのははしたないんだよ」
「あら……」
お兄様が渋い顔をしていた理由がわかった。他の人と一緒にいる時にテレビから気まずいシーンが流れてきたような空気だ。
黙って食事を続けながら、私は一つ、心に決めた。
今度からはちゃんと、図鑑の文章も読もう。