155話 my little friends.
今日はお兄様と天使様と一緒に、海にやって来た。この間買ってもらった、可愛いピンクのフリルがついた浮き輪を携えて。ちょっとドキドキしながら天使様の様子を見ていたのだけど、例のバナナの浮き輪を取り出したりはしないみたい。と言うか二人とも、水着ですらない。シーズン終わりとはいえまだまだ賑わっている砂浜で、黒スーツを着込んだお兄様と、かっちりした服装の天使様は逆に目立つ。
「……もしかして二人とも、今日泳ぐつもりはないの?」
「ああ。泳ぐなんて一言も言ってないからな」
「そういえばダイアナちゃんにはそう伝えていなかったね。ごめんよ」
二人とも悪びれない。服の下に水着を着ている私は一人だけ浮かれていたみたいで、ちょっと寂しい。
「でも、私には浮き輪を買っていいって言ってたじゃない」
「ああ。ダイアナは泳いできていいぞ。俺も天使サマも、この海でそれぞれ今日、仕事が入ったんだ。だから、お前が海で遊ぶにはちょうどいいんじゃないかって思ってな」
「そう……」
せっかく二人と遊べると思って、昨日からビーチボールも用意していたのに。
「仕事が早く終わったら、一緒に遊ぼう。私たちの水着は買えばいいんだから」
「ええ、そうね。待ってるわ」
それぞれ別方向に去ってしまった二人を見送る。スイカ柄のビーチボールとピンクの浮き輪が重い。
しばらくの間、足元を見ていた。砂はサラサラで、夏の日差しを吸収して熱い。その中に、ぴょこんと飛び出したものがある。二つの柄の先に小さな目がついていて、続いて私の足の指より小さな鋏と、貝殻を載せた胴体が現れた。ヤドカリだ。
「あら、可愛い」
私の足元にいるのに私には全然気づかず、ヤドカリは彼なりのタスクをこなし始めた。ひょこひょこ歩き、唐突に立ち止まり、小さな瞳であちこち見渡し、再び歩き始める。多分、食べ物を探しているのだ。
「可愛いわね……」
ボールと浮き輪はお兄様が立ててくれたパラソルの下に置いて、私はヤドカリを追いかけることにした。彼が背負っている貝殻は白地に茶色の渦巻きが走っていて、涼しげだ。驚かさないように、そっと、その歩みを追いかける。行き交う人の足の間を器用に行ったり来たりして、ヤドカリは歩き回る。楽しく追っているうちに、砂浜ではなく岩場に近い部分までたどり着いてしまって、私は足を止めた。裸足だから、岩のようにゴツゴツしたところには行けない。可愛いヤドカリは、岩の向こうへ行ってしまった。
仕方なく戻りかけた私の目は、砂の間からひょっこりと顔を出した、また別の生き物に吸い寄せられた。今度もまた二つの柄の先に小さな目がついていて、小さな鋏を持っている……けれど、貝殻は持っておらず、横向きに歩く……蟹だ。とても小さいけれど凛々しい、蟹だった。
「あらあら。可愛いわね……」
私は蟹を追って、再び砂浜をうろうろし始めた。
ハッと気がついた時にはもう夕方で、あんなに賑わっていた砂浜はがらんとしていた。途中でお兄様お手製のサンドイッチを食べにパラソルまで戻った他は、ずっと砂浜をうろついていたみたい。
「おーい、ダイアナちゃん」
どこかからか、天使様が手を振って近づいてきた。途中でお兄様も合流する。二人とも今までずっと仕事をしていたのだろうけれど、疲れた様子も見せない。
「二人とも、お疲れ様」
「ありがとう。ダイアナちゃんは海で泳げたかい」
「いいえ。結局、海には入らなかったの」
天使様は不思議そうだ。けれど、お兄様はその後ろで面白そうな顔をしている。
「小さな生き物を追いかけてたんだろ。仕事中、何度かお前を見かけて声をかけたのに、真剣な顔して蟹を追いかけていて、全く気が付かなかったからな」
「あら、それはごめんなさい。あまりに可愛かったものだから」
天使様とお兄様は顔を見合わせて楽しそうに笑った。それから三人で、くたくたになるまで泳いで、ビーチバレーをして、真夜中に帰ってきた。
「……もしかして二人とも、今日泳ぐつもりはないの?」
「ああ。泳ぐなんて一言も言ってないからな」
「そういえばダイアナちゃんにはそう伝えていなかったね。ごめんよ」
二人とも悪びれない。服の下に水着を着ている私は一人だけ浮かれていたみたいで、ちょっと寂しい。
「でも、私には浮き輪を買っていいって言ってたじゃない」
「ああ。ダイアナは泳いできていいぞ。俺も天使サマも、この海でそれぞれ今日、仕事が入ったんだ。だから、お前が海で遊ぶにはちょうどいいんじゃないかって思ってな」
「そう……」
せっかく二人と遊べると思って、昨日からビーチボールも用意していたのに。
「仕事が早く終わったら、一緒に遊ぼう。私たちの水着は買えばいいんだから」
「ええ、そうね。待ってるわ」
それぞれ別方向に去ってしまった二人を見送る。スイカ柄のビーチボールとピンクの浮き輪が重い。
しばらくの間、足元を見ていた。砂はサラサラで、夏の日差しを吸収して熱い。その中に、ぴょこんと飛び出したものがある。二つの柄の先に小さな目がついていて、続いて私の足の指より小さな鋏と、貝殻を載せた胴体が現れた。ヤドカリだ。
「あら、可愛い」
私の足元にいるのに私には全然気づかず、ヤドカリは彼なりのタスクをこなし始めた。ひょこひょこ歩き、唐突に立ち止まり、小さな瞳であちこち見渡し、再び歩き始める。多分、食べ物を探しているのだ。
「可愛いわね……」
ボールと浮き輪はお兄様が立ててくれたパラソルの下に置いて、私はヤドカリを追いかけることにした。彼が背負っている貝殻は白地に茶色の渦巻きが走っていて、涼しげだ。驚かさないように、そっと、その歩みを追いかける。行き交う人の足の間を器用に行ったり来たりして、ヤドカリは歩き回る。楽しく追っているうちに、砂浜ではなく岩場に近い部分までたどり着いてしまって、私は足を止めた。裸足だから、岩のようにゴツゴツしたところには行けない。可愛いヤドカリは、岩の向こうへ行ってしまった。
仕方なく戻りかけた私の目は、砂の間からひょっこりと顔を出した、また別の生き物に吸い寄せられた。今度もまた二つの柄の先に小さな目がついていて、小さな鋏を持っている……けれど、貝殻は持っておらず、横向きに歩く……蟹だ。とても小さいけれど凛々しい、蟹だった。
「あらあら。可愛いわね……」
私は蟹を追って、再び砂浜をうろうろし始めた。
ハッと気がついた時にはもう夕方で、あんなに賑わっていた砂浜はがらんとしていた。途中でお兄様お手製のサンドイッチを食べにパラソルまで戻った他は、ずっと砂浜をうろついていたみたい。
「おーい、ダイアナちゃん」
どこかからか、天使様が手を振って近づいてきた。途中でお兄様も合流する。二人とも今までずっと仕事をしていたのだろうけれど、疲れた様子も見せない。
「二人とも、お疲れ様」
「ありがとう。ダイアナちゃんは海で泳げたかい」
「いいえ。結局、海には入らなかったの」
天使様は不思議そうだ。けれど、お兄様はその後ろで面白そうな顔をしている。
「小さな生き物を追いかけてたんだろ。仕事中、何度かお前を見かけて声をかけたのに、真剣な顔して蟹を追いかけていて、全く気が付かなかったからな」
「あら、それはごめんなさい。あまりに可愛かったものだから」
天使様とお兄様は顔を見合わせて楽しそうに笑った。それから三人で、くたくたになるまで泳いで、ビーチバレーをして、真夜中に帰ってきた。