154話 Red candy
今日は、マツリカとカミラと一緒に出かけた。もうだいぶ涼しくなってきたとはいえ昼間はまだまだ暑い。それに、カミラには日光は毒だ。だから、三人で夜のピクニックをしようという話になったのだ。
夜の七時、集合時刻に集まった私とマツリカは、示し合わせたように動きやすいジーパンとTシャツ姿だ。けれど、カミラはそれこそお人形のようなシックで可愛らしいエプロンドレスのようなスカート姿だった。
「昔はもっと色々な服を持っていたのだけど、この体質になってからはこんな服ばかり着せられるようになってしまって……」
不満げなカミラに、私とマツリカは「可愛いわよ」「似合ってるわ」と、方向性が合っているのか分からない慰めの言葉をかけた。実際、黒を基調としたエプロンドレスは、カミラの白い肌によく似合っている。少し気を取り直したカミラと共に、私たちは街の中心部からそれほど遠くはない、小高い丘を目指して歩き始めた。昔、天文台があったらしいけれど、今では老若男女が憩う公園として親しまれている場所だ。
そんなに険しい道のりではない。軽く歩いて三十分ほどで頂上に着いてしまうような丘だ。のんびり歩いて登っていく途中で、降りてくる人たちともすれ違い、私たちを追い越して登っていく人たちもいる。みんな、残り少ない夏の夜を楽しみたいんだろう。中腹あたりまで登った頃、カミラが足を止めた。
「二人とも、スタミナあるわね。私、ちょっと疲れちゃったわ」
「あら……」
私はマツリカと顔を見合わせた。まだ十五分ほどしか歩いていない。
でも、よく考えると、カミラは日光や運動が苦手で、体育の時間は座学しか受けていない。それに今、吸血鬼であるカミラは、本来なら他の仲間たちと一緒に眠っていなくてはならない期間らしい。言うなればこんな運動、イレギュラーなのだ。
「少し休憩したら大丈夫かしら。それとも、今日は頂上は諦める?」
カミラの正体を知らないマツリカの前で、詳しい事情は話せない。私はそれには触れず、そう申し出た。カミラは「休めば大丈夫よ」と笑い、携えていた小さなポシェットから、何かを取り出した。
「疲れた時に食べようと思って、持って来ていたの」
「キャンディ?」
「ええ。あなたたちも一つ……」
言いかけて、カミラは声と手を引っ込めた。
「危なかったわ。これ、私の体質に合わせて特別に作ってもらった、薬みたいな物なの。他の人には良くない物なのよ」
ごめんなさいね、と言いながら、カミラは包み紙からキャンディを取り出し、口の中に放った。歩道に沿って設置された照明が、一瞬、キャンディを照らし出す。見間違いでなければ、それは真っ赤だった。
「うーん、美味しい! カミラ、ふっかーつ!」
宣言通りに元気を取り戻したカミラは、そのあと、私とマツリカを率いるようにして頂上へ辿り着いた。マツリカが水筒からお茶を取り出したりしている隙を狙って、私はカミラに耳打ちした。
「今のうちに口元を拭いておいた方がいいわよ。さっきのキャンディの色が、唇にべったり付いちゃってるわ」
口元を赤く染めた吸血鬼は、慌てて手の甲で唇を拭った。
夜の七時、集合時刻に集まった私とマツリカは、示し合わせたように動きやすいジーパンとTシャツ姿だ。けれど、カミラはそれこそお人形のようなシックで可愛らしいエプロンドレスのようなスカート姿だった。
「昔はもっと色々な服を持っていたのだけど、この体質になってからはこんな服ばかり着せられるようになってしまって……」
不満げなカミラに、私とマツリカは「可愛いわよ」「似合ってるわ」と、方向性が合っているのか分からない慰めの言葉をかけた。実際、黒を基調としたエプロンドレスは、カミラの白い肌によく似合っている。少し気を取り直したカミラと共に、私たちは街の中心部からそれほど遠くはない、小高い丘を目指して歩き始めた。昔、天文台があったらしいけれど、今では老若男女が憩う公園として親しまれている場所だ。
そんなに険しい道のりではない。軽く歩いて三十分ほどで頂上に着いてしまうような丘だ。のんびり歩いて登っていく途中で、降りてくる人たちともすれ違い、私たちを追い越して登っていく人たちもいる。みんな、残り少ない夏の夜を楽しみたいんだろう。中腹あたりまで登った頃、カミラが足を止めた。
「二人とも、スタミナあるわね。私、ちょっと疲れちゃったわ」
「あら……」
私はマツリカと顔を見合わせた。まだ十五分ほどしか歩いていない。
でも、よく考えると、カミラは日光や運動が苦手で、体育の時間は座学しか受けていない。それに今、吸血鬼であるカミラは、本来なら他の仲間たちと一緒に眠っていなくてはならない期間らしい。言うなればこんな運動、イレギュラーなのだ。
「少し休憩したら大丈夫かしら。それとも、今日は頂上は諦める?」
カミラの正体を知らないマツリカの前で、詳しい事情は話せない。私はそれには触れず、そう申し出た。カミラは「休めば大丈夫よ」と笑い、携えていた小さなポシェットから、何かを取り出した。
「疲れた時に食べようと思って、持って来ていたの」
「キャンディ?」
「ええ。あなたたちも一つ……」
言いかけて、カミラは声と手を引っ込めた。
「危なかったわ。これ、私の体質に合わせて特別に作ってもらった、薬みたいな物なの。他の人には良くない物なのよ」
ごめんなさいね、と言いながら、カミラは包み紙からキャンディを取り出し、口の中に放った。歩道に沿って設置された照明が、一瞬、キャンディを照らし出す。見間違いでなければ、それは真っ赤だった。
「うーん、美味しい! カミラ、ふっかーつ!」
宣言通りに元気を取り戻したカミラは、そのあと、私とマツリカを率いるようにして頂上へ辿り着いた。マツリカが水筒からお茶を取り出したりしている隙を狙って、私はカミラに耳打ちした。
「今のうちに口元を拭いておいた方がいいわよ。さっきのキャンディの色が、唇にべったり付いちゃってるわ」
口元を赤く染めた吸血鬼は、慌てて手の甲で唇を拭った。