147話 doll's fang
今日は新しいお友達ができた。カミラ・ホワイト……名前の通り、とっても肌の白くて綺麗な女の子。
しかも、普通の子じゃなかった。
「カミラはちょっと体が弱くて、体育の時間は座学を選択することになります。アレルギーが多いから、お家から持ってきたものしか食べられません。それと、えっと……日光にも当たれないんだったかしら?」
教壇に立った先生が、教室入口の前に立ったカミラを見た。天井のLEDライトに照らされて、カミラはぼんやり光っているように見えた。彼女は口ずさむように、小さく答えた。
「はい、先生。直射日光がだめなんです」
確かに、制服のチェック柄ワンピースは夏だというのに長袖ブラウスとの組み合わせだし、足も黒タイツで覆ってしまっている。ダークブラウンの長いウェーブがかかった髪は、首筋や小さな顔もカバーするかのよう。
「オーケイ。それと、宗教上の理由から、聖書学やミサにも出席できないということだったわね。皆さん、カミラに親切にしてあげてくださいね」
言われなくても、もちろんそうするわ。
私は率先して、カミラの案内役を買って出た。転校生には最初の一週間、クラスメートが案内役としてついて、色々教えてあげることになっている。
「カミラ。ここは昼間、太陽の光が差し込むから気をつけてね」
夕方、生徒の数もまばらな廊下を並んで歩きながら、彼女にとっての注意点を教えている時だった。
窓を閉め切った美術室の前で、彼女のチョコレートブラウンの瞳が赤く輝いたように見えた。
「あら……?」
それまで静かに微笑みながら私の言葉に相槌を打っていたカミラが、苦しげに口元を押さえる。
「気分が悪いの? お手洗いに行きましょう」
「いいえ、大丈夫……」
彼女の肩に置いた私の手を握って、カミラは首を振り、垂れた髪の間から私を見つめた。
「ちょっと血を飲めば……」
唇から、鋭い牙がのぞいている。
家に帰ると、お兄様が私を見て目を丸くした。
「ダイアナ、後ろに連れてるの、吸血鬼じゃないか?」
「さすがお兄様! その通りよ!」
私は、背中を丸めてついてきていたカミラを紹介した。
「こちら吸血鬼のカミラ! カミラ、こちらは私のお兄様よ!」
私が振り向くと、カミラは私の背中に隠れようと慌てて顔を引っ込めた。
「ご、ごめんなさいっ……!」
「何を謝ってるんだ? ダイアナ、朝話してた、今日来る予定の転校生ってのがひょっとして」
「そう、カミラよ! 学校を案内していたら、血が足りなくて気分が悪くなってしまったんですって。でも人間の血は飲みたくないって言うから、お兄様なら何とかしてくれるかと思って」
お兄様は首を傾げた。
「なんだって俺なら何とかしてくれると思うんだ……。まあいい」
お兄様はカミラに指を差し出した。
「ダイアナは俺の使い魔だ。血液と一緒に魔力まで吸われたら困るんでな。俺ので我慢しろ」
「えっ!!」
カミラは後ずさった。勢いが良すぎて、ドアノブに背中を打って悶絶して、それから勢いよく首を振った。
「高位の悪魔の血なんて飲んだら、私絶対ハイになっちゃいます……!」
「なんだそりゃ」
ひとしきり首を振り終えて、カミラはようやく、お兄様の指に口をつけた。ほんのちょっとだけ牙で傷をつけて、ひとすすりだけ。それでもう十分らしく、カミラは瞬く間に元気になった。
「カミラ、ふっかーつ!」
さっきまで泣き出しそうだったカミラが飛び跳ねそうな勢いで叫んだので、お兄様がちょっと身を引く。
「ありがとうございますダイアナとダイアナのお兄様! ランチ用に持って来ていた血液ゼリーをうっかり家に忘れて来てしまってダイアナが助けてくれなかったら今ごろ無差別吸血鬼になってたとこでした!」
全く息継ぎせずに話し切ったカミラは、確かにとっても元気そう。お兄様は身を引いたままだ。
「そ、そうか。元気になってよかった。……それにしても吸血鬼とは珍しいな。今時期は休眠期じゃなかったか」
「カミラはみんなが寝てるのに目が覚めちゃったんですって」
ここまでの道で、日傘に隠れながらカミラが話してくれた。吸血鬼は活動しているより寝ている方が好きで体質にも合っているから数百年くらい平気で眠るらしいのだけど……。
「私は夏が好きなの! 吸血鬼になる前も海に行ったり山に行ったり陽に当たって日焼けするのも好きで夏のレジャーとかスポーツとかもたくさんしてたのに吸血鬼になったら寝るのが普通だなんて聞いてないわよ寝てらんないわよ!」
「あー……」
カミラはやっぱりちょっとハイになってるみたいで、お兄様は引きっぱなし。それにしても、最初見た時はお人形さんのように可愛らしい子だと思ったけれど、全然お人形さんではなかったわね。
なんだか面白くて、笑ってしまう。
「カミラ、私も夏が大好きよ。太陽に当たるのがダメでも、夜に海に行くことだってできるのだし、この夏は一緒に遊び倒しましょう!」
私の言葉に、カミラは瞳を輝かせた。文字通り、吸血鬼らしく真っ赤に。
「ありがとうダイアナ! 転校した先で最初にできた友達があなたで本当に良かったわ!」
二人で手を取り合って笑っていると、後ろでお兄様の小さな呟きが聞こえた。
「何でもいいが、ダイアナの血は吸わないでくれよ……」
しかも、普通の子じゃなかった。
「カミラはちょっと体が弱くて、体育の時間は座学を選択することになります。アレルギーが多いから、お家から持ってきたものしか食べられません。それと、えっと……日光にも当たれないんだったかしら?」
教壇に立った先生が、教室入口の前に立ったカミラを見た。天井のLEDライトに照らされて、カミラはぼんやり光っているように見えた。彼女は口ずさむように、小さく答えた。
「はい、先生。直射日光がだめなんです」
確かに、制服のチェック柄ワンピースは夏だというのに長袖ブラウスとの組み合わせだし、足も黒タイツで覆ってしまっている。ダークブラウンの長いウェーブがかかった髪は、首筋や小さな顔もカバーするかのよう。
「オーケイ。それと、宗教上の理由から、聖書学やミサにも出席できないということだったわね。皆さん、カミラに親切にしてあげてくださいね」
言われなくても、もちろんそうするわ。
私は率先して、カミラの案内役を買って出た。転校生には最初の一週間、クラスメートが案内役としてついて、色々教えてあげることになっている。
「カミラ。ここは昼間、太陽の光が差し込むから気をつけてね」
夕方、生徒の数もまばらな廊下を並んで歩きながら、彼女にとっての注意点を教えている時だった。
窓を閉め切った美術室の前で、彼女のチョコレートブラウンの瞳が赤く輝いたように見えた。
「あら……?」
それまで静かに微笑みながら私の言葉に相槌を打っていたカミラが、苦しげに口元を押さえる。
「気分が悪いの? お手洗いに行きましょう」
「いいえ、大丈夫……」
彼女の肩に置いた私の手を握って、カミラは首を振り、垂れた髪の間から私を見つめた。
「ちょっと血を飲めば……」
唇から、鋭い牙がのぞいている。
家に帰ると、お兄様が私を見て目を丸くした。
「ダイアナ、後ろに連れてるの、吸血鬼じゃないか?」
「さすがお兄様! その通りよ!」
私は、背中を丸めてついてきていたカミラを紹介した。
「こちら吸血鬼のカミラ! カミラ、こちらは私のお兄様よ!」
私が振り向くと、カミラは私の背中に隠れようと慌てて顔を引っ込めた。
「ご、ごめんなさいっ……!」
「何を謝ってるんだ? ダイアナ、朝話してた、今日来る予定の転校生ってのがひょっとして」
「そう、カミラよ! 学校を案内していたら、血が足りなくて気分が悪くなってしまったんですって。でも人間の血は飲みたくないって言うから、お兄様なら何とかしてくれるかと思って」
お兄様は首を傾げた。
「なんだって俺なら何とかしてくれると思うんだ……。まあいい」
お兄様はカミラに指を差し出した。
「ダイアナは俺の使い魔だ。血液と一緒に魔力まで吸われたら困るんでな。俺ので我慢しろ」
「えっ!!」
カミラは後ずさった。勢いが良すぎて、ドアノブに背中を打って悶絶して、それから勢いよく首を振った。
「高位の悪魔の血なんて飲んだら、私絶対ハイになっちゃいます……!」
「なんだそりゃ」
ひとしきり首を振り終えて、カミラはようやく、お兄様の指に口をつけた。ほんのちょっとだけ牙で傷をつけて、ひとすすりだけ。それでもう十分らしく、カミラは瞬く間に元気になった。
「カミラ、ふっかーつ!」
さっきまで泣き出しそうだったカミラが飛び跳ねそうな勢いで叫んだので、お兄様がちょっと身を引く。
「ありがとうございますダイアナとダイアナのお兄様! ランチ用に持って来ていた血液ゼリーをうっかり家に忘れて来てしまってダイアナが助けてくれなかったら今ごろ無差別吸血鬼になってたとこでした!」
全く息継ぎせずに話し切ったカミラは、確かにとっても元気そう。お兄様は身を引いたままだ。
「そ、そうか。元気になってよかった。……それにしても吸血鬼とは珍しいな。今時期は休眠期じゃなかったか」
「カミラはみんなが寝てるのに目が覚めちゃったんですって」
ここまでの道で、日傘に隠れながらカミラが話してくれた。吸血鬼は活動しているより寝ている方が好きで体質にも合っているから数百年くらい平気で眠るらしいのだけど……。
「私は夏が好きなの! 吸血鬼になる前も海に行ったり山に行ったり陽に当たって日焼けするのも好きで夏のレジャーとかスポーツとかもたくさんしてたのに吸血鬼になったら寝るのが普通だなんて聞いてないわよ寝てらんないわよ!」
「あー……」
カミラはやっぱりちょっとハイになってるみたいで、お兄様は引きっぱなし。それにしても、最初見た時はお人形さんのように可愛らしい子だと思ったけれど、全然お人形さんではなかったわね。
なんだか面白くて、笑ってしまう。
「カミラ、私も夏が大好きよ。太陽に当たるのがダメでも、夜に海に行くことだってできるのだし、この夏は一緒に遊び倒しましょう!」
私の言葉に、カミラは瞳を輝かせた。文字通り、吸血鬼らしく真っ赤に。
「ありがとうダイアナ! 転校した先で最初にできた友達があなたで本当に良かったわ!」
二人で手を取り合って笑っていると、後ろでお兄様の小さな呟きが聞こえた。
「何でもいいが、ダイアナの血は吸わないでくれよ……」