144話 Thunder storm sisters!

 今日はとても風の強い日で、リビングの窓際に吊り下げられているフーリン、もとい風の悪魔の眷属である風を食べる魔物も、チリンチリンと朝から鳴り続けていた。
「今日はスケッチの授業で外に出る日なのに、これじゃ大変だわ」
 朝食のクッキーを食べながらぼやくと、紅茶を淹れてくれながらお兄様が笑う。
「ダイアナの絵は、いつも風が吹き荒れているようなもんだろ。気にするな」
「あら、そんなことないわよ。美術の先生に独創的だって褒められたんだから」
 そんな会話を交わしていたら、フーリンが食べてしまうせいで窓から室内には入ってこないはずの風が、急にドッと吹き寄せてきた。
「きゃっ」
 乱れる髪を慌てて押さえて、窓を見る。テラスには知らない人が立っていた。耳の辺りで切り揃えられた髪は染めているのか真っ白で、すらっとした長身。白くてフリルのたくさんついた可愛らしいワンピースがよく似合っているけれど、表情は少し厳しい感じを受ける。見た目からして女の人のようだけれど、体が全体的に平べったい感じがして、中性的な印象を受ける。
「誰……?」
 いえ、それよりも、ここはとっても高いマンションの、さらに高層階なのだけど……どうやって入って来たのかしら。
 私が首を傾げていると、お兄様が声を上げた。
「おっ。風の悪魔じゃないか。よく来たな」
 風の悪魔と呼ばれた女の人は、空中を弾むように部屋に入ってきた。
「久しいな、蛇の悪魔」
「いや、せいぜい二週間ぶりだろ。そのフーリンを預かって二週間なんだから」
 相変わらず感覚が変なやつだな、とお兄様は首を振る。風の悪魔さんはその言葉に全く動じた風もない。黒い中に白いつむじ風が渦を巻いている不思議な瞳で、黒一色の部屋を見渡した。
「黒は落ち着かんな」
「俺の部屋だから、俺が落ち着けりゃいいんだよ。で、何の用だ?」
「待ち合わせだ」
「待ち合わせ?」
 思いがけない言葉に、いつもクールなお兄様が、珍しい表情をした。訳がわからない、と言いたげな。私にも、意味がわからない。お兄様と顔を見合わせてしまう。
「待ち合わせというのは、相手と時刻と場所を示し合わせて」
「いや、語義は知ってる。そうじゃなくてだな」
 お兄様がもどかしそうに言った時、テラスから陽気で聴き馴染みのある声が聞こえた。
「ヘイ、ガイズ! いい日和だねえ。元気かい」
 ハイヒールを打ち鳴らしながら入って来たのは、雷のお姉様だった。黒くて豊かな髪を腰までうねらせて、好みらしい黄色の衣服を身につけている。今日はフリルのついたワンピース……あら。
「風の悪魔さんとお揃いの服だわ」
 私が呟くと、雷のお姉様は口角を上げた。
「嬢ちゃんは可愛い上によく気がつくねえ。そういうところも大好きだよ」
 雷のお姉様は風の悪魔さんの隣に立ち、その肩に寄りかかった。
「すまないね、ここをこいつとの待ち合わせ場所にしてしまって」
 なるほど。風の悪魔さんの待ち合わせ相手は、雷のお姉様だったのだ。
 お兄様が、はあとため息をついた。
「全く、お前らな。俺の家を何だと思ってるんだ。待ち合わせならよそでやってくれ」
 至極当然の言葉だけれど、風の悪魔さんはやっぱり動じない。
「フーリンの様子も見たかったのでね。元気そうでよかった」
 フーリンが嬉しそうにチリンと鳴る。
「そいじゃ、邪魔したね」
「さらばだ」
 二人は入って来た時と同様に唐突に踵を返し、窓の外へと消えてしまった。一見すると正反対のような見た目だけれど、変にお似合いな気がする二人だった。
「あいつらは昔から組んで仕事をすることが多くてな。悪魔には血縁関係なんてありえないが、姉妹みたいに仲がいいんだ。人の迷惑を顧みないところもそっくりだぜ、全く」
 そう言いながらも機嫌の良さそうなお兄様は、窓の外に目をやった。
「そら、嵐が来るぞ」
 ゴロゴロと、雷雲の音が響いてきた。
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