136話 wind eater

 今日は、お兄様が変わった物を持ち帰って来た。
 窓際に吊るされたそれは、ガラスの半円ドームの中央から一枚の紙が垂れ下がり、それが風に吹かれるたびに、ドームの内側にあるパーツがガラスに当たって音を立てた……何のための物なのか、よくわからない。
「フーリン?」
「ああ。こっちで言うならウインドチャイム。日本の、夏の風物詩だな。音や見た目が涼しげだろ。それで涼をとるってわけだ」
 夏でも全身黒で統一して、しかもジャケットまで着ているというのに汗ひとつかかないお兄様の口から「涼しげ」なんて言葉が出るのは、ちょっと面白い。でも確かに、風に吹かれるたびに響くフーリンの音は、涼しげだ。
「でもなんだか変ね。フーリンが鳴っているってことは、風が吹いているのは確かなはずなのに……」
 全然、風の流れを感じない。この部屋はマンションの高層階で、バルコニーに続く大きな窓を開けておけば、いつでも爽やかな風が吹き込んでくるのに。
 お兄様はにやりと笑い、フーリンを指した。
「よく見てみろ」
「何……? あら!」
 風に吹かれてゆらゆら動くフーリンの、ガラスドームに不思議な穴が開いている。まるで口のような……。
「そいつは風の悪魔から預かったんだ。風を魔力に変換するための、半魔物でな。風を食っちまうんだよ」
「あらあら」
 ガラスドームにはつぶらな目までついている。小さな目がぱちぱち瞬いて私を見つめ、その間にも、口は周りの風を吸い込み続けている。
 私がじっと見つめていると、半透明だったガラスドームが、ほんのりとピンクになった。
「はは。こいつ、照れてやがる」
 お兄様が、生きているフーリンの、紙の部分をくるくると回す。フーリンはますます赤くなった。
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