133話 morning routine
よく晴れた気持ちのいい朝。洗面所で顔を洗っていると、お兄様に声をかけられた。
「ダイアナ、今日はどうする?」
タオルで顔を拭きながら、朝からビシッと決まってる、お兄様の顔を見る。
「今日は……マツリカとお出かけだから、お願いしたいわ」
「オーケー」
お兄様はふらりと廊下へ行ってしまった。私は髪をとかして一旦部屋に戻り、今日のために用意しておいた服に着替える。マツリカの青みがかった黒い髪とお揃いの色の、シックで可愛いワンピースだ。
リビングに戻ると、お兄様がモーニングティーを用意してくれていた。私と同じ、使い魔仲間のコウモリが、ミルクをたっぷり注いでくれる。
「ありがとう」
コウモリは彼独特の言語で『どういたしまして』と言って、またパタパタと飛び去った。彼らは悪魔であり私たちの主人でもある、お兄様の命で働く。今日も、とても忙しそう。
座ってミルクティーを飲んでいると、お兄様が朝食を運んで来てくれた。ベーコンエッグと、レタスとトマトのサラダ、それに苺ジャムたっぷりのパン。
「まったく、お前は俺の使い魔だってことを忘れるなよ」
「いつも優しいお兄様が大好きよ」
お兄様は肩をすくめて、食べ始めた私の後ろに立った。
「それで? どんなのにしたい」
「そうね……」
お兄様特製のドレッシングをよく絡めたレタスをパリパリと噛み砕きながら、私は考えた。マツリカと一日、駅前や大通りをウインドウショッピングするのに相応しい髪型は……。
「……お任せで!」
お兄様が呆れたように息をつく。
「お前な。いつもそうやって俺に任せるが、もう少し考えたらどうなんだ。年頃の女の子なんだから、やってみたい髪型くらいあるだろ」
一旦フォークを置いて首を捻り、私はお兄様の顔を見上げた。
「だって、お兄様はいつでも私のことを考えて、最善のヘアスタイルにしてくれるでしょう? 今まで一度だって嫌なスタイルにされたことないし、毎回マツリカに好評なの」
私の言葉に、お兄様は「はいはい」と両手を挙げた。
「お姫様のお言葉に従いますよ」
お兄様の手が、優しく髪に触れるのを感じる。何か魔法を使っている気配はなく、ただ時々コームで梳いてくれるくらいだ。
「今日はどこへ行くんだ?」
「駅前と大通りを中心に歩く予定よ。マツリカは本屋さんを見たいって言ってたわね。私は自然公園にも行きたいの」
「ふうん」
話している間にも、お兄様の手が器用に動いているのがわかる。時々きゅっと引っ張られるけれど、痛くはない。私がサラダを食べ切る頃、お兄様が手を止めた。
「よし、できた」
魔法で出現した鏡がテーブルの上に浮き、私を映す。いつも頭の高い位置でツインテールにしている金髪が背中に下りていて、パッと見た印象が随分違う。
「サイドの髪を編み込んで、後ろでねじって留めてある。前髪も、いつもより額が出る感じに分けてみた。今日はシックなワンピースだから、それに合わせて少し大人っぽくアレンジした」
「わあ! ありがとう、お兄様!」
鏡の前で顔を左右に向けて、可愛い三つ編みを確認する。大人っぽいけれど可愛い、さすがお兄様だ。
「お前は落ち着きがないからな。ハーフアップにすることで後ろの髪が前に垂れてこないから、髪を下ろしても邪魔にならないはずだ」
「そうなのね! ありがとう! 髪留めも綺麗な花のモチーフね」
感嘆しながら食事を終えた私の前から皿を片付けていたお兄様は、一瞬、手を止めて微笑んだ。
「それはマツリカの花だ」
私は立ち上がり、お兄様の手を取った。
「ありがとう、お兄様! 大好きよ!」
「あ、ああ……」
戸惑った様子のお兄様の手を解放して、私は意気揚々と廊下へのドアを開いた。
「ダイアナ、そのくらいのアレンジなら自分ひとりでもできるから、今度教えて……」
「お兄様にしてもらうのが一番素敵なんだもの! これからもお願いするわ」
出て行く時に見たお兄様は、呆れと戸惑いと、それから少しだけ嬉しさが混じった、微妙な表情をしていた。
「ダイアナ、今日はどうする?」
タオルで顔を拭きながら、朝からビシッと決まってる、お兄様の顔を見る。
「今日は……マツリカとお出かけだから、お願いしたいわ」
「オーケー」
お兄様はふらりと廊下へ行ってしまった。私は髪をとかして一旦部屋に戻り、今日のために用意しておいた服に着替える。マツリカの青みがかった黒い髪とお揃いの色の、シックで可愛いワンピースだ。
リビングに戻ると、お兄様がモーニングティーを用意してくれていた。私と同じ、使い魔仲間のコウモリが、ミルクをたっぷり注いでくれる。
「ありがとう」
コウモリは彼独特の言語で『どういたしまして』と言って、またパタパタと飛び去った。彼らは悪魔であり私たちの主人でもある、お兄様の命で働く。今日も、とても忙しそう。
座ってミルクティーを飲んでいると、お兄様が朝食を運んで来てくれた。ベーコンエッグと、レタスとトマトのサラダ、それに苺ジャムたっぷりのパン。
「まったく、お前は俺の使い魔だってことを忘れるなよ」
「いつも優しいお兄様が大好きよ」
お兄様は肩をすくめて、食べ始めた私の後ろに立った。
「それで? どんなのにしたい」
「そうね……」
お兄様特製のドレッシングをよく絡めたレタスをパリパリと噛み砕きながら、私は考えた。マツリカと一日、駅前や大通りをウインドウショッピングするのに相応しい髪型は……。
「……お任せで!」
お兄様が呆れたように息をつく。
「お前な。いつもそうやって俺に任せるが、もう少し考えたらどうなんだ。年頃の女の子なんだから、やってみたい髪型くらいあるだろ」
一旦フォークを置いて首を捻り、私はお兄様の顔を見上げた。
「だって、お兄様はいつでも私のことを考えて、最善のヘアスタイルにしてくれるでしょう? 今まで一度だって嫌なスタイルにされたことないし、毎回マツリカに好評なの」
私の言葉に、お兄様は「はいはい」と両手を挙げた。
「お姫様のお言葉に従いますよ」
お兄様の手が、優しく髪に触れるのを感じる。何か魔法を使っている気配はなく、ただ時々コームで梳いてくれるくらいだ。
「今日はどこへ行くんだ?」
「駅前と大通りを中心に歩く予定よ。マツリカは本屋さんを見たいって言ってたわね。私は自然公園にも行きたいの」
「ふうん」
話している間にも、お兄様の手が器用に動いているのがわかる。時々きゅっと引っ張られるけれど、痛くはない。私がサラダを食べ切る頃、お兄様が手を止めた。
「よし、できた」
魔法で出現した鏡がテーブルの上に浮き、私を映す。いつも頭の高い位置でツインテールにしている金髪が背中に下りていて、パッと見た印象が随分違う。
「サイドの髪を編み込んで、後ろでねじって留めてある。前髪も、いつもより額が出る感じに分けてみた。今日はシックなワンピースだから、それに合わせて少し大人っぽくアレンジした」
「わあ! ありがとう、お兄様!」
鏡の前で顔を左右に向けて、可愛い三つ編みを確認する。大人っぽいけれど可愛い、さすがお兄様だ。
「お前は落ち着きがないからな。ハーフアップにすることで後ろの髪が前に垂れてこないから、髪を下ろしても邪魔にならないはずだ」
「そうなのね! ありがとう! 髪留めも綺麗な花のモチーフね」
感嘆しながら食事を終えた私の前から皿を片付けていたお兄様は、一瞬、手を止めて微笑んだ。
「それはマツリカの花だ」
私は立ち上がり、お兄様の手を取った。
「ありがとう、お兄様! 大好きよ!」
「あ、ああ……」
戸惑った様子のお兄様の手を解放して、私は意気揚々と廊下へのドアを開いた。
「ダイアナ、そのくらいのアレンジなら自分ひとりでもできるから、今度教えて……」
「お兄様にしてもらうのが一番素敵なんだもの! これからもお願いするわ」
出て行く時に見たお兄様は、呆れと戸惑いと、それから少しだけ嬉しさが混じった、微妙な表情をしていた。
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