129話 幸せの便り
黒一色のリビングで暫く待っていると、愛する悪魔がドアを開けて、顔を出した。そっとドアを閉めて、テーブルを挟んだ向こう側の椅子に座って、ふうと息をついた。
「……ダイアナちゃんの様子は」
「ようやく落ち着いて、今は寝てるよ」
「そう」
珍しく慌てた声の悪魔から電話をもらって駆けつけた私は、混乱した様子のダイアナちゃんから、一枚の封筒を渡された。目に涙を溜めた少女は、震える声で手紙の真贋を見極めてくれと言った。中にあったのは、彼女の亡くなったご両親からの手紙だった。
「これは……」
「アダムからの手紙に、同封されていたの。私のパパママに会って、手紙を書いてもらったって……」
ダイアナちゃんは不幸な事件によって、両親を一度に失くしている。しかし彼らが天の国にいることは、すでに確認済みだった。アダムは天界に戻ってから、ダイアナちゃんの両親の居場所を探ったのだろう。悪魔に命を助けられ、今はその使い魔であるダイアナちゃんは、どうしたって天国に行くことはできない。だが、手紙のやり取りなら、確かに可能だ。なぜ今まで考え付かなかったのかと思うほど、単純明快な方法だった。アダムは人間界でよくしてくれたダイアナちゃんのために、私にも相談せず、奔走したのだろう。
「確かに、これは正真正銘、ダイアナちゃんのご両親からの手紙に間違いないようだよ」
文面は読まず、私はそれを彼女に返した。小さな少女の、震える両手に。
ダイアナちゃんは一度自分の部屋に戻り、今は自分の主人でもある悪魔と、私も呼んで、その手紙を読んだ。読み上げ始めた彼女の声はすぐに涙声になり、天国で楽しく暮らし、いつでもダイアナちゃんを見守っているという記述に差し掛かると、もう声にならなかった。
彼女はしゃくりあげた。悪魔の腕にしがみつくようにして。
「パパもママも、幸せにしてるって……。私が学校に通っているのを、友達と遊んでいるのを、……見ていて幸せだって、……っ、」
優しい雇い主である悪魔は、少女の涙に戸惑ったように私を見たが、そろそろと、その頭を撫でてあげていた。私はそっと部屋を出て、ダイアナちゃんが落ち着くのを待っていたというわけだ。
「考えてみれば、ダイアナちゃんにとって、ご両親との別れは唐突で残酷なものだったんだよね。確実に天国にいるとわかった後も、直接会えたわけではない。ダイアナちゃんにとって、ご両親は……」
最期に会った時の、助けられなかった姿のまま。
私の言葉に悪魔は黒目を伏せ、頷いた。
「そうだな。あいつがその時の悪夢をよく見るというのも、当然のことだ」
そして顔を上げ、笑った。
「俺は会ったことがないが、天使見習いの坊主には感謝しなくちゃいけないな」
ああ、この男は本当に、ダイアナちゃんのことを大切に思っているのだ。
私は彼の手を取った。
優しい悪魔とその使い魔の少女に、これからも幸せが降り注ぐように、祈らずにはいられなかった。
「……ダイアナちゃんの様子は」
「ようやく落ち着いて、今は寝てるよ」
「そう」
珍しく慌てた声の悪魔から電話をもらって駆けつけた私は、混乱した様子のダイアナちゃんから、一枚の封筒を渡された。目に涙を溜めた少女は、震える声で手紙の真贋を見極めてくれと言った。中にあったのは、彼女の亡くなったご両親からの手紙だった。
「これは……」
「アダムからの手紙に、同封されていたの。私のパパママに会って、手紙を書いてもらったって……」
ダイアナちゃんは不幸な事件によって、両親を一度に失くしている。しかし彼らが天の国にいることは、すでに確認済みだった。アダムは天界に戻ってから、ダイアナちゃんの両親の居場所を探ったのだろう。悪魔に命を助けられ、今はその使い魔であるダイアナちゃんは、どうしたって天国に行くことはできない。だが、手紙のやり取りなら、確かに可能だ。なぜ今まで考え付かなかったのかと思うほど、単純明快な方法だった。アダムは人間界でよくしてくれたダイアナちゃんのために、私にも相談せず、奔走したのだろう。
「確かに、これは正真正銘、ダイアナちゃんのご両親からの手紙に間違いないようだよ」
文面は読まず、私はそれを彼女に返した。小さな少女の、震える両手に。
ダイアナちゃんは一度自分の部屋に戻り、今は自分の主人でもある悪魔と、私も呼んで、その手紙を読んだ。読み上げ始めた彼女の声はすぐに涙声になり、天国で楽しく暮らし、いつでもダイアナちゃんを見守っているという記述に差し掛かると、もう声にならなかった。
彼女はしゃくりあげた。悪魔の腕にしがみつくようにして。
「パパもママも、幸せにしてるって……。私が学校に通っているのを、友達と遊んでいるのを、……見ていて幸せだって、……っ、」
優しい雇い主である悪魔は、少女の涙に戸惑ったように私を見たが、そろそろと、その頭を撫でてあげていた。私はそっと部屋を出て、ダイアナちゃんが落ち着くのを待っていたというわけだ。
「考えてみれば、ダイアナちゃんにとって、ご両親との別れは唐突で残酷なものだったんだよね。確実に天国にいるとわかった後も、直接会えたわけではない。ダイアナちゃんにとって、ご両親は……」
最期に会った時の、助けられなかった姿のまま。
私の言葉に悪魔は黒目を伏せ、頷いた。
「そうだな。あいつがその時の悪夢をよく見るというのも、当然のことだ」
そして顔を上げ、笑った。
「俺は会ったことがないが、天使見習いの坊主には感謝しなくちゃいけないな」
ああ、この男は本当に、ダイアナちゃんのことを大切に思っているのだ。
私は彼の手を取った。
優しい悪魔とその使い魔の少女に、これからも幸せが降り注ぐように、祈らずにはいられなかった。