128話 天使と悪魔と不可視のピラミッド

 同僚と共に宿泊させてもらった教会付属の宿を、私は夜中にひっそりと抜け出した。あの後対面したビシャーラは詳しいことを話さずのらりくらりと追及をかわして教会を出て行ってしまったが、私は遅れて後を追ったのだった。途中で物売りの少年たちに囲まれてしまって、町外れに彼の背中を認めたのはかなり経ってからのことだ。耳をそばだてた私が聞いたのは、彼の独り言だった。
「今晩決行だな」
 おそらくは『不可視のピラミッド』の封印を解除し、中を探索するということだろうと踏んだ。まあ、もし全然違うことだったとしても、別に問題はない。気長に調査をするだけのことだ。
 私は彼の住む小さく質素な家の付近で、彼が出てくるのを待った。やがて出てきた彼に、一人の男が近寄っていくのがわかった。どうやら現地の人間らしい。
「そうか。一人では危険だものな……」
 別に仲間がいたのだな、と納得して、私は彼らを追った。途中、ラクダに乗り換えて砂漠を歩き始めた時はどうしようかと一瞬躊躇したが、蠍に変身して、その後を追った。夜の砂漠は澄んだ美しさで、月の光がほとんど音のしない静かな空間に降り注いでいるのが心地よかった。今度、愛する悪魔と共に歩きたいものだ。
 そんなことをぼんやり考えている間に、彼らの乗るラクダが足を止めた。どうやら、ここに『不可視のピラミッド』があるらしい。
 私が見ている前で、ビシャーラがピラミッドの封印を解除した。見る間に姿を現したピラミッドは、どこも崩れておらず、建設当時の完璧な佇まいを残している。どうやらこのピラミッドは、この国で王墓の守り手として信仰されている蛇によって封印を施されていたようだ。彼ら独特の魔力が漂ってくる。
 ビシャーラと仲間の男はひとしきり入り口のあたりをうろうろしていたが、どうやら仲間の方が腕に怪我をしたらしい。ビシャーラが狼狽ているのが見てとれた。しかし冷静な男の行動により、無事にピラミッドの入り口が開かれた。二人が、ぽっかりと空いた黒い穴に吸い込まれるように消えてゆく。
 私も慌てて、その後を追いかけた。
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