128話 天使と悪魔と不可視のピラミッド
教会を出ると、もう夕暮れになっていた。
西欧から研修に来たという若い司祭が二人、私が見つけた『不可視のピラミッド』についてずいぶん気にして質問してきたが、おおかたアースィムにでも止めるように吹き込まれたのだろう。あの事務員はよく気が回って使えるが、余計な首の突っ込み方をする。
日が沈むと、途端に気温が下がっていくのがわかる。非常に過ごしやすい温度だ。足早に歩いて町外れまでたどり着いたとき、後ろから声がかかった。
「司祭様。ビシャーラ様」
振り向くと、見たことのない男が立っていた。この国の人間であろう顔立ちだが、服の色はどうやら黒のようだ。昼もそんな色の服で歩いているのだとしたら、かなり変わっている。
「何か御用でしょうか」
私の名前を知っているということは、私は覚えていなくとも、信者の一人かもしれない。
男は薄ら笑いを浮かべながら言った。
「ビシャーラ様が、見えないピラミッドを見つけたというもっぱらの噂でございます。私めもあなた様のお力をぜひお近くで拝見したく」
思わず、眉が寄る。
「誰から聞いた。私はまだ教会内部にしかその話をしていない」
必要な準備ができるまで、一般信者には話を漏らさぬよう、教会の人間には言ってある。そもそも真偽の定かでない妄言を、教会の人間たちも本気になどしてはいまい。
険しい口調を作りながらも、しかし私は男の言葉を否定しなかった。これも目論見通りだ。
男は私の耳元まで顔を擦り寄せ、囁いた。甘い吐息が頬にかかる。
「その筋では話題ですよ。あんたがピラミッドを盗掘しようと考えているって」
「何を無礼な」
私は身を引いた。しかし男は構わず、なおも距離を詰めてくる。
「いや、俺は何もあんたをインチキ呼ばわりしたいわけじゃない。むしろ、それが本当だと信じたからこそ、あんたの手助けをしたいと思ってやって来たんだ」
「何を言っている……」
「あんたの目的はわかってる。あらかじめ見つけたピラミッド内に潜り込んで価値のある宝を盗み出し、その後から信者たちの目の前でピラミッドを可視化して教会の名声とし、新たな信者の獲得に繋げたいんだろう」
そこまで見抜くとは、頭の回る男だ。『不可視のピラミッド』の存在そのものは疑っていないのを見るに、こいつも私同様、霊能力を持っているのかもしれない。
私は石壁の際に追いやられながら、続く男の言葉を待った。
「俺はあんたが盗み出す宝の、ほんの一部でも分け前として貰えればいい。あんたに本物の霊感があることは、俺にもわかっている。だがピラミッド内部の罠や呪術的仕掛けの解除には、それほど自信がないだろう?」
私は膝を叩きたくなった。こういう人間が現れるのを待っていたのだ。
思わず笑みがこぼれそうになるのを努力して抑えて、私は男を見た。
「盗掘などは考えていないが、下見はせねばならないと考えていた。それに同行して罠の解除などをしてくれると言うなら、してもらおうか」
男は笑って、一歩引いた。
「承知した。すぐに信用してもらえるとは思ってないさ。だが、最深部まで辿り着けたら報酬をくれよ」
ああ、報酬はやるとも。
私は頷いて、そこでようやく笑みを浮かべた。
西欧から研修に来たという若い司祭が二人、私が見つけた『不可視のピラミッド』についてずいぶん気にして質問してきたが、おおかたアースィムにでも止めるように吹き込まれたのだろう。あの事務員はよく気が回って使えるが、余計な首の突っ込み方をする。
日が沈むと、途端に気温が下がっていくのがわかる。非常に過ごしやすい温度だ。足早に歩いて町外れまでたどり着いたとき、後ろから声がかかった。
「司祭様。ビシャーラ様」
振り向くと、見たことのない男が立っていた。この国の人間であろう顔立ちだが、服の色はどうやら黒のようだ。昼もそんな色の服で歩いているのだとしたら、かなり変わっている。
「何か御用でしょうか」
私の名前を知っているということは、私は覚えていなくとも、信者の一人かもしれない。
男は薄ら笑いを浮かべながら言った。
「ビシャーラ様が、見えないピラミッドを見つけたというもっぱらの噂でございます。私めもあなた様のお力をぜひお近くで拝見したく」
思わず、眉が寄る。
「誰から聞いた。私はまだ教会内部にしかその話をしていない」
必要な準備ができるまで、一般信者には話を漏らさぬよう、教会の人間には言ってある。そもそも真偽の定かでない妄言を、教会の人間たちも本気になどしてはいまい。
険しい口調を作りながらも、しかし私は男の言葉を否定しなかった。これも目論見通りだ。
男は私の耳元まで顔を擦り寄せ、囁いた。甘い吐息が頬にかかる。
「その筋では話題ですよ。あんたがピラミッドを盗掘しようと考えているって」
「何を無礼な」
私は身を引いた。しかし男は構わず、なおも距離を詰めてくる。
「いや、俺は何もあんたをインチキ呼ばわりしたいわけじゃない。むしろ、それが本当だと信じたからこそ、あんたの手助けをしたいと思ってやって来たんだ」
「何を言っている……」
「あんたの目的はわかってる。あらかじめ見つけたピラミッド内に潜り込んで価値のある宝を盗み出し、その後から信者たちの目の前でピラミッドを可視化して教会の名声とし、新たな信者の獲得に繋げたいんだろう」
そこまで見抜くとは、頭の回る男だ。『不可視のピラミッド』の存在そのものは疑っていないのを見るに、こいつも私同様、霊能力を持っているのかもしれない。
私は石壁の際に追いやられながら、続く男の言葉を待った。
「俺はあんたが盗み出す宝の、ほんの一部でも分け前として貰えればいい。あんたに本物の霊感があることは、俺にもわかっている。だがピラミッド内部の罠や呪術的仕掛けの解除には、それほど自信がないだろう?」
私は膝を叩きたくなった。こういう人間が現れるのを待っていたのだ。
思わず笑みがこぼれそうになるのを努力して抑えて、私は男を見た。
「盗掘などは考えていないが、下見はせねばならないと考えていた。それに同行して罠の解除などをしてくれると言うなら、してもらおうか」
男は笑って、一歩引いた。
「承知した。すぐに信用してもらえるとは思ってないさ。だが、最深部まで辿り着けたら報酬をくれよ」
ああ、報酬はやるとも。
私は頷いて、そこでようやく笑みを浮かべた。