126話 お別れなんてどこにもない
親愛なるダイアナ
天使見習いの自由研究のためにこの一ヶ月間を人間界で生活してみましたが、毎日が驚きと喜びの連続でした! ダイアナと一緒に巡った歴史ある建物や博物館に美術館、景勝地に観光地……特に、あの夜見た満天の星空は絶対に忘れられません!
ダイアナはいつでも親切に、何も知らないボクに色々なことを教えてくれましたね。ダイアナは元人間で今は悪魔の使い魔という身の上ですが、本当の善性を持っていると確信しています。貴女のように複雑な境遇にあっても、人は善性を失わないのだということが、ボクにはとてもかけがえのないことだと思われます。
ありがとうございます、ダイアナ。これからまだ天使見習いの日々は続きますが、貴女がこの世界にいるというだけで、一人前の天使になって人間界に戻って来たいという気持ちが強まります。
人間の持つ愛情、善性、美しさを教えてくれた貴女に、限りない感謝と祈りを。
天使見習い アダムより
私は白い便箋に綴られた青い文字を再度、読み返した。
アダムは天界に戻ってしまった。私がぐっすりと眠っている夜のうちに。
「天使様、アダムは無事に天界に着けたの」
手紙を届けてくれた天使様に尋ねると、天使様は頷いた。
「さっき、天界から報告があったよ。これからこちらで学んだことを何らかの形にまとめるのだと、張り切っていた」
「そう。それならよかったわ。それにしても、一ヶ月間一緒にいたから寂しい気がするわね。お見送りもできなかったし……。アダムが一人前の天使になるのって、いつかしら」
いつも同じくらいの目線で無邪気に笑っていたアダムの顔を思い浮かべながら尋ねると、天使様は「数百年後かなあ」と答えた。
私は思わず後ずさった。
「数百年後……人間とは尺度が違い過ぎて、想像ができないわ……。私、アダムのこと忘れちゃうんじゃないかしら」
「ふふ。それは心配ないよ。こんな風に、定期的に手紙を書くと言っていた」
アダムは律儀にも、この一ヶ月間で関わった人全員に手紙を残していったらしい。それは、一瞬挨拶を交わしただけのマツリカにさえ。一体マツリカ宛には何と書いてあるのか気になるところではあるけれど、それは私が知るべきことではないだろう。
「そうなのね。それならよかったわ。……あ! それじゃあ私からもお返事を書ける?」
天使様はにっこりと微笑んだ。
「もちろんさ。そうしてもらえると、アダムも喜ぶよ。仲立ちは私がするね」
天界は、行く資格のある魂しか辿り着けない所らしい。使い魔なんて絶対に無理だ。だからもうアダムとは数百年間やりとりできないのかと思ったけれど、手紙を送り合えるのなら、寂しくはない。寂しくないから、これはお別れではない。
「ふふっ。天使様、この世界には本当のお別れなんてないのかもしれないわね」
私の言葉に、天使様は深く頷いてくれた。
「そうだね。本当にその通りだ」
さて、アダムへの返事はどんなことを書こう。話したいこと、教えてあげたいこと、教わりたいことは、たくさんある。
まずは可愛い便箋とインクを買わなくちゃ。
天使見習いの自由研究のためにこの一ヶ月間を人間界で生活してみましたが、毎日が驚きと喜びの連続でした! ダイアナと一緒に巡った歴史ある建物や博物館に美術館、景勝地に観光地……特に、あの夜見た満天の星空は絶対に忘れられません!
ダイアナはいつでも親切に、何も知らないボクに色々なことを教えてくれましたね。ダイアナは元人間で今は悪魔の使い魔という身の上ですが、本当の善性を持っていると確信しています。貴女のように複雑な境遇にあっても、人は善性を失わないのだということが、ボクにはとてもかけがえのないことだと思われます。
ありがとうございます、ダイアナ。これからまだ天使見習いの日々は続きますが、貴女がこの世界にいるというだけで、一人前の天使になって人間界に戻って来たいという気持ちが強まります。
人間の持つ愛情、善性、美しさを教えてくれた貴女に、限りない感謝と祈りを。
天使見習い アダムより
私は白い便箋に綴られた青い文字を再度、読み返した。
アダムは天界に戻ってしまった。私がぐっすりと眠っている夜のうちに。
「天使様、アダムは無事に天界に着けたの」
手紙を届けてくれた天使様に尋ねると、天使様は頷いた。
「さっき、天界から報告があったよ。これからこちらで学んだことを何らかの形にまとめるのだと、張り切っていた」
「そう。それならよかったわ。それにしても、一ヶ月間一緒にいたから寂しい気がするわね。お見送りもできなかったし……。アダムが一人前の天使になるのって、いつかしら」
いつも同じくらいの目線で無邪気に笑っていたアダムの顔を思い浮かべながら尋ねると、天使様は「数百年後かなあ」と答えた。
私は思わず後ずさった。
「数百年後……人間とは尺度が違い過ぎて、想像ができないわ……。私、アダムのこと忘れちゃうんじゃないかしら」
「ふふ。それは心配ないよ。こんな風に、定期的に手紙を書くと言っていた」
アダムは律儀にも、この一ヶ月間で関わった人全員に手紙を残していったらしい。それは、一瞬挨拶を交わしただけのマツリカにさえ。一体マツリカ宛には何と書いてあるのか気になるところではあるけれど、それは私が知るべきことではないだろう。
「そうなのね。それならよかったわ。……あ! それじゃあ私からもお返事を書ける?」
天使様はにっこりと微笑んだ。
「もちろんさ。そうしてもらえると、アダムも喜ぶよ。仲立ちは私がするね」
天界は、行く資格のある魂しか辿り着けない所らしい。使い魔なんて絶対に無理だ。だからもうアダムとは数百年間やりとりできないのかと思ったけれど、手紙を送り合えるのなら、寂しくはない。寂しくないから、これはお別れではない。
「ふふっ。天使様、この世界には本当のお別れなんてないのかもしれないわね」
私の言葉に、天使様は深く頷いてくれた。
「そうだね。本当にその通りだ」
さて、アダムへの返事はどんなことを書こう。話したいこと、教えてあげたいこと、教わりたいことは、たくさんある。
まずは可愛い便箋とインクを買わなくちゃ。