125話 貴方の隣で着るものは
久々に一日デートができる休日とあって、俺は朝早くに天使の居宅を訪ねた。出迎えてくれた天使は、その独特のセンスで以て選んでいるらしい部屋着を着ていた。白地に謎のキャラクターがデカデカと印刷されたTシャツに、やたらと派手な虹色めいたサルエルパンツ……。いや待て、一体どこでそんな服買ってきたんだ?
俺は額に手を当て、鞄を持ち出そうとする天使を止めた。
「ストップ、天使サマ。ちょっと待ってくれ……まさかとは思うが、今日のデート、その格好で?」
「え?」
天使はきょとんとして、首を傾げた。
「そうだけど。何か変かな」
「ぐ……」
変と言えば変だ、が、それが天使のスタイルなら……。しかし……。
改めてじっくり見ると、Tシャツのキャラクターは猫と犬の混合に翼を足したような曖昧な生物で、吹き出しの中には漢字で「我等永遠友情不滅也」と書いてあって意味不明だ。サルエルパンツの方は、角度によって玉虫のように色が変わる仕様らしい。これを着こなすにはまた別のセンスが必要になるだろう。
「うーむ……」
どうしたものか。
「天使サマは、そのコーディネート……が気に入っているのか?」
おずおず尋ねると、あっけらかんとした答えが返ってきた。
「いや、別に。キャラクターは可愛いから好きだけど、これじゃなきゃ嫌だということはないんだ。パンツは同僚が不要になったらしくてくれただけだしね。私には人間のコーディネートというものが、まだよくわからないんだ」
勉強中なのさ、と笑う天使に、俺はほっとした。これじゃなきゃ嫌だと言われれば、それを受け入れる覚悟はできていたが……それにしても天使にはもっと似合う服装をしてほしいという気持ちが大きい。少年の面影を残した金髪碧眼の美青年という容姿が、今の衣服では生かされないどころか埋没してしまう。
「それじゃあ天使サマ、持っている衣服を見せてくれ。俺が今日の服装を考えたい」
「わあ、いいのかい! 一人だと全然わからないから助かるよ。お前が買ってくれた服も時々着ているんだけど、確かに評判がいいんだ」
嬉しそうに、天使はクローゼットから衣服を取り出してきた。
「それじゃあ簡単に人間のコーディネートについて教えるから、今後の参考にしてくれ」
「オーケー!」
「まずは色相、簡単に言えば色合いのことだが、この配色にも人間は傾向を見出して名前をつけている。例えばこんな風に」
パステルピンクのシャツと、ベビーブルーのデニムを揃えて示す。
「こういう淡い色調のことを、ペールカラーという。どちらも明るく、しっくりくるだろ」
「なるほど。勉強になるよ」
「お前にはこういう薄く明るい色調が似合うと思うが、意外と活動的なところもあるからビビッドカラーもいいと思うぞ。それで行くと、これとこれと……」
俺はいくつかのパターンを示し、天使はいちいち着替えて見せてくれた。俺の見立てはぴったり合っていて、どれもよく似合っている。しばらく試着を行って全パターンを試し終え、天使は元のスタイルに戻った。
「……こんなところだな。さて、天使サマはどれが気に入った?」
俺の問いかけに、天使は最初に選んだパステルピンクのシャツとベビーブルーのデニムを指した。
「これかな! 今日の気分にも合っている。それに……」
天使は着替えながら、俺にウィンクした。
「お前の表情が、一番嬉しそうだった」
俺は額に手を当て、鞄を持ち出そうとする天使を止めた。
「ストップ、天使サマ。ちょっと待ってくれ……まさかとは思うが、今日のデート、その格好で?」
「え?」
天使はきょとんとして、首を傾げた。
「そうだけど。何か変かな」
「ぐ……」
変と言えば変だ、が、それが天使のスタイルなら……。しかし……。
改めてじっくり見ると、Tシャツのキャラクターは猫と犬の混合に翼を足したような曖昧な生物で、吹き出しの中には漢字で「我等永遠友情不滅也」と書いてあって意味不明だ。サルエルパンツの方は、角度によって玉虫のように色が変わる仕様らしい。これを着こなすにはまた別のセンスが必要になるだろう。
「うーむ……」
どうしたものか。
「天使サマは、そのコーディネート……が気に入っているのか?」
おずおず尋ねると、あっけらかんとした答えが返ってきた。
「いや、別に。キャラクターは可愛いから好きだけど、これじゃなきゃ嫌だということはないんだ。パンツは同僚が不要になったらしくてくれただけだしね。私には人間のコーディネートというものが、まだよくわからないんだ」
勉強中なのさ、と笑う天使に、俺はほっとした。これじゃなきゃ嫌だと言われれば、それを受け入れる覚悟はできていたが……それにしても天使にはもっと似合う服装をしてほしいという気持ちが大きい。少年の面影を残した金髪碧眼の美青年という容姿が、今の衣服では生かされないどころか埋没してしまう。
「それじゃあ天使サマ、持っている衣服を見せてくれ。俺が今日の服装を考えたい」
「わあ、いいのかい! 一人だと全然わからないから助かるよ。お前が買ってくれた服も時々着ているんだけど、確かに評判がいいんだ」
嬉しそうに、天使はクローゼットから衣服を取り出してきた。
「それじゃあ簡単に人間のコーディネートについて教えるから、今後の参考にしてくれ」
「オーケー!」
「まずは色相、簡単に言えば色合いのことだが、この配色にも人間は傾向を見出して名前をつけている。例えばこんな風に」
パステルピンクのシャツと、ベビーブルーのデニムを揃えて示す。
「こういう淡い色調のことを、ペールカラーという。どちらも明るく、しっくりくるだろ」
「なるほど。勉強になるよ」
「お前にはこういう薄く明るい色調が似合うと思うが、意外と活動的なところもあるからビビッドカラーもいいと思うぞ。それで行くと、これとこれと……」
俺はいくつかのパターンを示し、天使はいちいち着替えて見せてくれた。俺の見立てはぴったり合っていて、どれもよく似合っている。しばらく試着を行って全パターンを試し終え、天使は元のスタイルに戻った。
「……こんなところだな。さて、天使サマはどれが気に入った?」
俺の問いかけに、天使は最初に選んだパステルピンクのシャツとベビーブルーのデニムを指した。
「これかな! 今日の気分にも合っている。それに……」
天使は着替えながら、俺にウィンクした。
「お前の表情が、一番嬉しそうだった」