121話 満天輝いて

 アダムが地球から見た星を見たいと言うので、その晩は特別にお兄様から許可を得て、街外れの小高い丘へやって来ていた。見習いとは言え天使のアダムと共にはいられないので、お兄様は来られない。代わりに天使様がついてきてくれている。
「あの輝いているのが、全て星なんですよね!」
 アダムの声が弾む。深夜二時、周りには大きな道路もないので目立つ灯りもなく、もちろん人通りもない。静かな丘から見上げる星空は、プラネタリウムよりも綺麗に思える。
「そうよ。星の詳しい話は、私もよく知らないけれど……」
「気になった星があれば位置を覚えておいて、後で調べればいいよ。スマートフォンに星座早見アプリがあるとラブに教わったのだけど、使いこなせなくてね」
 天使様が申し訳なさそうに言うけれど、アダムはろくに聞いていない。両手を広げてくるくると回り、嬉しそうに笑っている。
「ああ。星って、こんなにあるんですね! こんなに輝いて見えるんですね! 天界からではこんな風に見えないので、今とても……嬉しいです!」
 嬉しそうにしている人を見ると、私も嬉しくなる。ただでさえ、こんな夜中に外に出ることなんて滅多にないし。
「天界はそれ自体が光を放っているから、星なんて見えないんだよね。アダムがこの星空を見られてよかった」
 天使様が微笑む。アダムはちっとも落ち着かずにずっとぐるぐる回りながら、天使様の手を取った。
「ありがとうございます! あなたが指導担当で、本当に良かった! ボク達が守護する世界がこんなに美しいということを知られて、本当に良かったです!」
「そう言ってもらえて、私も嬉しいよ。通常、実地で人界に滞在させる研修は行われないから、こんな機会でもないとね」
 ああ、そうか。
 私はその時、天使様の指導方針が腑に落ちた。天使様は人間のことを人間の立場に立って導きたいと思う変わり者なのだと、お兄様から聞いたことがある。普通の天使は、人間の本質を理解しようとしないものなのだとも。
 天使様は自分がアダムの指導担当になったこの機会に、もっと人間に寄り添える天使を育成しようと思ったのだ。
 そしてそれは今のところ、大成功だ。
 星空をその大きな瞳に映して笑うアダムを見ていると、そんな気がした。
1/1ページ
スキ