118話 ハートを二人で

 週末、賑わう街中を天使と共に歩いていた。俺が選んだ夏服を着て隣を歩く天使の、清らかな姿に頭がくらくらする。天使が飲みたそうにしていた屋台のトロピカルジュースを買おうと店員に声をかけると、日焼けした若い店員は商品を差し出しながら言った。
「お兄さんたち、すっごく仲良いね! もしかしてカップル?」
「ああ」
 頷くと、店員はサングラスの下でウィンクして、ジュースのカップに刺さっていたストローを差し替えた。
「これ、カップル限定のサービスなんだ。週末を楽しんで!」
「……ありがとう」
 礼を言って、待っている天使の元へ戻る。少し気恥ずかしくなりながら差し出すと、天使は「わお」と声を上げた。
「これ、ストローがハート型で……先が二つに分かれているんだね! 珍しいデザインだ」
「ああ、そうだな。カップル限定なんだと」
 俺の言葉に天使は一瞬キョトンとしたが、すぐ楽しそうに口元を緩めた。
「なるほど、二人で飲めるのか! ふふ、これはいいアイディアだね!」
 二人で一つの飲み物を飲むことが人間にとって特別であるということを、この天使はあまり意識していないようだ。ただ単にお得だとでも思っているのかもしれない。
「じゃあ早速飲もうか! ほら、お前はこっちから」
「ん……」
 歩道の脇で二人して、ハート型のストローでジュースを飲む。すぐ隣に天使の金髪が揺れて、味はさっぱりわからないままに、俺は幸せで頭が痺れるのを感じた。
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