111話 奇跡はきっと世界中に
子供の頃から、私は霊感が強かった。親や兄弟、友達には見えない人たちを見ることができたし、思春期に達した頃には幽霊だけではない、人間に混じって暮らしている色々なものがわかるようになっていた。どうせ誰も信じないだろうから言わないけれど、この世には天使も悪魔もそこらじゅうにいるのだ。天使は普通の人間よりも白っぽくて綺麗なオーラを纏っているからすぐわかる。わかりにくいのは悪魔だ。悪魔は何となく黒っぽいオーラを纏っていて、わかりやすいものだと腐臭すら感じられることがあるけれど、基本的にはほとんど人間と区別がつかない。多分、人間が多かれ少なかれ、悪魔の纏うような邪気を持っているからなのだと思う。
私はこの能力をうまく活用して、自分の運気を切り開いてきた。何も知らずにいたら引っかかっていたかもしれない悪魔の毒手から完璧に逃れてこられたし、天使たちの守護の厚い場所を選んで立ち寄り、自分の霊感を守ってきた。そして今、磨き上げた直感を駆使して、占い師としての生計を立てることに成功した。毎日、国のお偉い人たちから助言を請われ、それ以外にもさまざまな人から依頼を受ける。適職だとはいえ、自分の感覚を研ぎ澄ませなくてはいけないので、非常に疲れる。
というわけで、今日はバカンスとして地中海の島に遊びに来ていた。ここでは一切、仕事のことは忘れる。昼間はビーチでのんびりと過ごし、夜は美味しい地中海料理に舌鼓を打つ。やはりシーズンの観光地だけあって、あちらこちらに悪魔が見受けられる。そして、それを牽制するかの如く、天使も。不思議なことに、彼らが直接やりあっているのを見たことはない。もしかしたら、そんなことをしたら大変なことになってしまうのかも。
などと想像を逞しくしつつ、私は今晩の食事を摂る場所を探して街の中をうろうろ歩いていた。外はもうだいぶ暗くなり、家々の灯りが街路に漏れて、とても綺麗だ。……と、そこへ思いがけない光景が飛び込んできたので、私は思わず足を止めた。
そこはどうやらホテルのようだった。白い石壁が美しく街頭に映え、海に面した磨りガラスの窓がキラキラと光っている。もちろん窓ガラスの向こうは見えない。おそらく客室になっているのだろう。その窓ガラスを透かして、私は見てしまった……否、感じてしまったのだ。
天使と悪魔が仲睦まじげに寄り添っているのを。
「そんなバカな」
天使も悪魔も、直接の交渉はしないはずだ。というか、私は今までそう思ってきた。しかも何というか……攻撃しあっているというならまだ納得がいくのに、この部屋の窓越しに伝わってくるのは、紛れもない愛の気配だ。
天使と悪魔が愛し合っているだなんて、そんなことが。
信じられず、なかなか立ち去れないでいると、やがて二人の気配がシャットアウトされてしまった。きっと、向こうが私の存在に気がついたのだ。
「お、お邪魔しました……!」
私は慌てて立ち去った。世界には私の知らないことがまだまだたくさんあるのだ、と新鮮な驚きに打たれながら。
私はこの能力をうまく活用して、自分の運気を切り開いてきた。何も知らずにいたら引っかかっていたかもしれない悪魔の毒手から完璧に逃れてこられたし、天使たちの守護の厚い場所を選んで立ち寄り、自分の霊感を守ってきた。そして今、磨き上げた直感を駆使して、占い師としての生計を立てることに成功した。毎日、国のお偉い人たちから助言を請われ、それ以外にもさまざまな人から依頼を受ける。適職だとはいえ、自分の感覚を研ぎ澄ませなくてはいけないので、非常に疲れる。
というわけで、今日はバカンスとして地中海の島に遊びに来ていた。ここでは一切、仕事のことは忘れる。昼間はビーチでのんびりと過ごし、夜は美味しい地中海料理に舌鼓を打つ。やはりシーズンの観光地だけあって、あちらこちらに悪魔が見受けられる。そして、それを牽制するかの如く、天使も。不思議なことに、彼らが直接やりあっているのを見たことはない。もしかしたら、そんなことをしたら大変なことになってしまうのかも。
などと想像を逞しくしつつ、私は今晩の食事を摂る場所を探して街の中をうろうろ歩いていた。外はもうだいぶ暗くなり、家々の灯りが街路に漏れて、とても綺麗だ。……と、そこへ思いがけない光景が飛び込んできたので、私は思わず足を止めた。
そこはどうやらホテルのようだった。白い石壁が美しく街頭に映え、海に面した磨りガラスの窓がキラキラと光っている。もちろん窓ガラスの向こうは見えない。おそらく客室になっているのだろう。その窓ガラスを透かして、私は見てしまった……否、感じてしまったのだ。
天使と悪魔が仲睦まじげに寄り添っているのを。
「そんなバカな」
天使も悪魔も、直接の交渉はしないはずだ。というか、私は今までそう思ってきた。しかも何というか……攻撃しあっているというならまだ納得がいくのに、この部屋の窓越しに伝わってくるのは、紛れもない愛の気配だ。
天使と悪魔が愛し合っているだなんて、そんなことが。
信じられず、なかなか立ち去れないでいると、やがて二人の気配がシャットアウトされてしまった。きっと、向こうが私の存在に気がついたのだ。
「お、お邪魔しました……!」
私は慌てて立ち去った。世界には私の知らないことがまだまだたくさんあるのだ、と新鮮な驚きに打たれながら。