107話 悪魔の甘い仕事
珍しく夏らしい爽やかな昼、天使の家を訪れた。いつも通り白く清潔な部屋に、陽光に当たって幸せそうな植物たちが目に映える。天使は戸棚から緑色の箱を取り出してきた。
「昨日スーパーで買ったんだけれど、一緒にどうだい」
「いや、俺はいい。食べてる天使サマを見てるよ」
「そう」
俺が食べないのはいつものことなので、天使は一人でパッケージを開けていそいそと包みを開き始めた。この国の王室御用達の、ミント風味のチョコレートだ。天使の細い指が一番大きいチップをつまみ、口に入れた。
「美味いか」
「うん、ハッカの風味がひんやりしていて。私はこの商品が特に好きで、昔から売っているのを見かけると買ってしまうんだ」
「チョコとミントの組み合わせ自体は十八世紀からあったわけだが、その頃から?」
天使は一枚食べ切って紅茶を口に含み、ゆっくり味わいながら頷いた。
「初めて食べた時は、人間の味覚というものに感動したなあ。彼らはどうして、こんな意外性のある組み合わせを発見してしまうんだろう」
まさに奇跡だ、と言いながら、天使は口の中の余韻を味わう。
「実はそれは、俺たち悪魔の功労なんだぜ」
「へっ?」
天使の可憐な唇が小さく開いた。
「それはまた、どういうこと」
「人間の欲を煽り唆し、魂を地獄に誘うのが俺たち悪魔の仕事だ。味覚はそのまま食欲に繋がるだろう。画期的な食材の組み合わせは、俺たち悪魔が人間の耳元に囁いたお陰で発見されたものも数多いんだぜ」
「なるほど……」
本来なら食事の必要もなく、ただひたすら人間に信仰の道を説く存在である天使には馴染みの薄い話だろう。俺たち悪魔にとっては嬉しいことに。
天使はチョコのパッケージを見つめてちょっとだけ考えた様子だったが、すぐに中くらいのチップを摘んで口に入れた。
「だとしても、やっぱり美味しいなあ」
「そういうところ好きだぜ」
俺は天使が箱を空にするのを、楽しく見つめ続けた。
「昨日スーパーで買ったんだけれど、一緒にどうだい」
「いや、俺はいい。食べてる天使サマを見てるよ」
「そう」
俺が食べないのはいつものことなので、天使は一人でパッケージを開けていそいそと包みを開き始めた。この国の王室御用達の、ミント風味のチョコレートだ。天使の細い指が一番大きいチップをつまみ、口に入れた。
「美味いか」
「うん、ハッカの風味がひんやりしていて。私はこの商品が特に好きで、昔から売っているのを見かけると買ってしまうんだ」
「チョコとミントの組み合わせ自体は十八世紀からあったわけだが、その頃から?」
天使は一枚食べ切って紅茶を口に含み、ゆっくり味わいながら頷いた。
「初めて食べた時は、人間の味覚というものに感動したなあ。彼らはどうして、こんな意外性のある組み合わせを発見してしまうんだろう」
まさに奇跡だ、と言いながら、天使は口の中の余韻を味わう。
「実はそれは、俺たち悪魔の功労なんだぜ」
「へっ?」
天使の可憐な唇が小さく開いた。
「それはまた、どういうこと」
「人間の欲を煽り唆し、魂を地獄に誘うのが俺たち悪魔の仕事だ。味覚はそのまま食欲に繋がるだろう。画期的な食材の組み合わせは、俺たち悪魔が人間の耳元に囁いたお陰で発見されたものも数多いんだぜ」
「なるほど……」
本来なら食事の必要もなく、ただひたすら人間に信仰の道を説く存在である天使には馴染みの薄い話だろう。俺たち悪魔にとっては嬉しいことに。
天使はチョコのパッケージを見つめてちょっとだけ考えた様子だったが、すぐに中くらいのチップを摘んで口に入れた。
「だとしても、やっぱり美味しいなあ」
「そういうところ好きだぜ」
俺は天使が箱を空にするのを、楽しく見つめ続けた。