101話 いのちの証

 ダイアナが小鳥を拾って来た。いや、拾って来たと言うよりは、小鳥の方がダイアナを選んだと言うべきかもしれない。
「木の下に落ちてたの」
 ダイアナの手の中で、茶色い小鳥は小さく震えた。毛並みは艶やかさを失い、囀りもしない。
「近くに親鳥がいたんじゃないのか」
「そうかも。だから手当てだけして戻してあげたくて……」
 どうやらこの家から徒歩数分の公園で見つけて、手当てし次第すぐに戻してやりたいという話らしい。
「ここは動物病院でも保健所でもないんだぜ。それに、今ごろ親鳥が心配して探しているかもしれん」
「手当てだけ。簡単な手当てだけでいいの」
 こういう時、ダイアナは頑固だ。恐らく両親の教えが身に染み付いているのだろう。善事を為すチャンスを、まるで天使のように捕らえて離さない。しかし自分が善だと信じることが他の者にとっても善である保証はないということを、この少女もいつか知ることになるだろう。
 だが、まあ、それまでの間は雇用主として、してやれることはしてやるつもりだ。
 俺はため息をついて頷いた。
「わかったよ」
 指を鳴らし、どうやら落ちた時の衝撃で弱ったらしい小鳥の内臓の働きを少しだけ回復させてやった。
 ダイアナが息を詰めて見守る前で、小鳥の弱々しく荒かった呼吸が、深く落ち着いたものになっていった。息を吸い、吐くということは、生命活動の根本だ。小鳥は落としかけていた生命を取り戻した。
 ダイアナが目を潤ませて俺を見た。
「お兄様、ありがとう。すぐに巣に戻してあげるわ」
「どういたしまして。だが、もう怪我をした動物を拾ってきたりするんじゃないぞ。少なくとも、その命の責任をもてるようになるまでは」
「はい、お兄様」
 テーブルの上で、小鳥が軽く歌った。
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