100話 make sweets.

 仕事が早く終わったので、悪魔の居宅へ足を運んだ。どうやらおやつタイムだったらしく、ダイアナちゃんがテーブルに座って幸せそうな顔で私を見た。
「こんにちは、天使様。今ちょっと遅いティータイムだったの。お兄様がお茶とお菓子を用意してくれて」
 見ると彼女の手に、キラリと光る半透明の菓子がある。まるで鉱物のように美しいが、私は見たことがない。
「それは?」
「琥珀糖」
 キッチンから出て来た悪魔が、彼の髪や目と同じ黒色のエプロンを畳みながら言う。
「和菓子なんだ。例の如くマツリカから話を聞いたらしくてな、ねだられた」
「お兄様、何でもすぐに作ってくれるから大好きよ」
「現金なやつだ」
 悪魔は軽く肩をすくめ、私に椅子とお茶を勧めてくれた。座りつつ、ダイアナちゃんの前にある美しい小皿に目をやる。……もうカケラしか残っていない。
「天使サマもご所望なら作るが……しかしこれ、材料さえあれば簡単だからな。そうだ、作り方を教えてやるよ」
「本当かい! それは嬉しいな。お前から料理を習えるなんて」
 悪魔はその性質上、人間の技術を最高レベルで再現することができる。私が褒めるたびに男は照れたように「そういうふうにできてるってだけだ」と言うが、やはりすごいことだ。そんな彼から直接菓子作りを学べるなんて、願ってもない。
 私が喜ぶのを意外そうに見ていた悪魔は、ふっと微笑んだ。
「俺に作ってくれと言うかと思ったが、さすが天使サマだな」
「お前と一緒に作ったら、お前が作った分も食べられるからね」
 男は楽しそうに笑い声を上げた。
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