99話 私に教えて
夏場の人気スポットのひとつに水族館があることは知っていたけれど、本当にこんなに混んでいるものだとは思わなかった。子供から年配者まで多くの人々が、思い思いの足取りで館内を歩き回っている。
「天使サマ、すまないな。ダイアナが俺と天使サマと行きたいと言って聞かなくて……」
困り顔で頭を下げる悪魔に、私は首を振る。
「むしろ誘ってもらえて嬉しいよ。私は生き物が大好きだから、とっても楽しい」
「それならよかった」
悪魔の黒目が、ようやく和んだ。
「それにしてもダイアナちゃんはどうして私たちと一緒に来たかったんだろう? マツリカちゃんと来てもきっと楽しかったろうに」
むしろ同年代の親友と一緒の方が気安いのではないか。
しかし悪魔は私の言葉に苦笑いをした。
「それがな……」
「お待たせ、お兄様、天使様!」
入ってすぐのところに泳いでいた海亀にはりついていたダイアナちゃんが、小走りでやって来た。
「それじゃあ進もうか」
「ええ。……あら、あれは蟹かしら。ハサミに何か挟んでるみたい」
大水槽の隅の方を指して、ダイアナちゃんが首を傾げる。小さな小さな蟹が、こちらを見ていた。
「ああ、そいつはボクサークラブという。手に持ってるの、チアリーディングで使われるポンポンみたいだろ。こいつはイソギンチャクでな、どうやら蟹が小さい時から共生関係にあるらしい」
「そうなの。確かにポンポンを揺らしてるみたいに見えるわね、可愛い。あ、あれは?」
「あれはエンゼルフィッシュ。天使の魚だな」
ダイアナちゃんの問いかけに答える悪魔が、面白そうに私を見る。私もその後を継いで説明を付け加える。
「ここに泳いでいるのはホワイト・エンゼルとブラック・エンゼルのようだね。ほら、ご覧。ブラック・エンゼルの目の虹彩は赤いんだ。ふふ、誰かさんみたいだね」
燃える赤い瞳孔を持つ悪魔は、照れたように目を逸らした。ダイアナちゃんが楽しそうに水槽を眺めている横で、彼は囁き声で言う。
「さっきの話だがな。俺と天使サマに知らないことはないだろ。つまりそういうことさ」
「なるほど。解説役に選ばれたということか」
ダイアナちゃんからのご指名の理由に、私と悪魔は笑った。
水族館を出る頃には、私たちはたくさんの人に取り囲まれていた。
「どいつもこいつも無料で解説を聞かせてもらえると思って」と悪魔はぼやいた。
「天使サマ、すまないな。ダイアナが俺と天使サマと行きたいと言って聞かなくて……」
困り顔で頭を下げる悪魔に、私は首を振る。
「むしろ誘ってもらえて嬉しいよ。私は生き物が大好きだから、とっても楽しい」
「それならよかった」
悪魔の黒目が、ようやく和んだ。
「それにしてもダイアナちゃんはどうして私たちと一緒に来たかったんだろう? マツリカちゃんと来てもきっと楽しかったろうに」
むしろ同年代の親友と一緒の方が気安いのではないか。
しかし悪魔は私の言葉に苦笑いをした。
「それがな……」
「お待たせ、お兄様、天使様!」
入ってすぐのところに泳いでいた海亀にはりついていたダイアナちゃんが、小走りでやって来た。
「それじゃあ進もうか」
「ええ。……あら、あれは蟹かしら。ハサミに何か挟んでるみたい」
大水槽の隅の方を指して、ダイアナちゃんが首を傾げる。小さな小さな蟹が、こちらを見ていた。
「ああ、そいつはボクサークラブという。手に持ってるの、チアリーディングで使われるポンポンみたいだろ。こいつはイソギンチャクでな、どうやら蟹が小さい時から共生関係にあるらしい」
「そうなの。確かにポンポンを揺らしてるみたいに見えるわね、可愛い。あ、あれは?」
「あれはエンゼルフィッシュ。天使の魚だな」
ダイアナちゃんの問いかけに答える悪魔が、面白そうに私を見る。私もその後を継いで説明を付け加える。
「ここに泳いでいるのはホワイト・エンゼルとブラック・エンゼルのようだね。ほら、ご覧。ブラック・エンゼルの目の虹彩は赤いんだ。ふふ、誰かさんみたいだね」
燃える赤い瞳孔を持つ悪魔は、照れたように目を逸らした。ダイアナちゃんが楽しそうに水槽を眺めている横で、彼は囁き声で言う。
「さっきの話だがな。俺と天使サマに知らないことはないだろ。つまりそういうことさ」
「なるほど。解説役に選ばれたということか」
ダイアナちゃんからのご指名の理由に、私と悪魔は笑った。
水族館を出る頃には、私たちはたくさんの人に取り囲まれていた。
「どいつもこいつも無料で解説を聞かせてもらえると思って」と悪魔はぼやいた。