98話 fly with me.

 私には翼がある。お兄様のように大きなものではないけれど、大型の鳥くらいの立派な綺麗な翼。もちろん、色はお兄様とお揃いの黒……カラス達ともお揃いの。昔から純白の翼を持つ天使様の絵画に祈りを捧げてきた私だけれど、悪魔であるお兄様に命を救われて使い魔になった今は、この翼が私のもの。使い魔仲間であるカラス達にも褒められる、艶やかで綺麗な翼……なのだけれど。
「飛ぶのが怖い?」
 お兄様は切長の目を丸くした。いつも冷静で格好いいお兄様の、滅多に見られない表情だ。私は足元に視線を落とした。
「そうなの……」
 立派な翼をもらったのに、実は飛んだことがない。
 使い魔になったばかりの時に一度試してみて、羽ばたき方がよく分からなくて怖い思いをしてしまったのが原因だと思う。お兄様は「ふん」と顎に手を当てて考え込んだ。やがて空中から取り出した黒いスマホに何やら打ち込んで、また暫く考え込むように黙っていた。きっと何か、私のためにしてくれているのだ。
 じっと待っていると、画面を見つめていたお兄様の口元がにっと笑った。
「よし、ダイアナ。天使サマのOKが出たぞ」
「え? 天使様のOK?」
 何の話かわからない。
「ダイアナ。お前は俺と天使サマと一緒に、空中ピクニックに行くことになったんだよ」
 その翼を羽ばたかせてな、とお兄様が笑う。私は一瞬呆然として、それから俄然、燃えてきた。
 お兄様と天使様と一緒に空中ピクニックなんて、楽しそうすぎる。
「それじゃあそれまでに絶対飛べるようになっておかなくちゃ!」
「ああ。カラスやコウモリのやつらと一緒に特訓だ。もちろん、俺も見ててやる」
「ありがとう、お兄様!」
 早くも肩甲骨の辺りがうずうずする。
1/1ページ
スキ